第52章 普通を叶える/イルミ/執事パロ
※ 執事という設定上敬語を使ってます
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「貴族だがセレブだかなんだか知らねぇけど気取ってんじゃねぇーよ」
そんな下々の人間の声にも慣れた。
そもそも好きでこの家に生まれたわけじゃない。
丁寧な言葉も話し方も 背筋を伸ばした歩き方も マナーに固まった食事の仕方も 老舗店の高級素材の洋服も、自分が好んで選んだものなんか一つもない。
「わたくしが羨ましくて?たかが一般家庭出身の貴方方とわたくしを比べる事自体が無意味で滑稽。そもそも次元が違うんですもの」
嫌味や罵声を浴びせられるたびそう言い返しプライドを守ってきた。
世の中は彼女を高飛車で下々を見下ろす事しかしない世間知らずなお嬢様だと思っている。
間違いはない、事実その通りなのだから。
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「わたくしはただ普通になりたいのです」
「と 言うと?」
夕食後の広い寝室。
夜風は身体に障ると言いながら執事が大きな窓を閉める。部屋には庭のイングリッシュローズの残りが柔らかく残った。
先週仕入れたばかりの新しいティーカップに用意された就寝前のハーブティーには目もくれぬまま ベッドから上半身を起こした。
執事がさらりとカーテンを引けば美しいドレープが部屋に華やかさを作り出す。ただそんな日常の光景には一切の興味もない。執事の束ねられた黒髪と燕尾服の長い裾を睨むように見た。
「何度も言わせないで。普通の暮らしがしたいのです」
「兼ねてより申しておりますが お嬢様はこの名門家の御息女である身の上。我儘を仰らぬよう」
「わたくしが好きでこの家に生まれたわけでもないのに。普通になりたいと願う事の何がいけないのです?!」
「そんなものはお嬢様には不要。早急におやすみ下さい」
執事はベッドに近づくと宥めるように 香り立つハーブティーを差し出してくる。欲しいのはそんなものではない、白いグローブをはめた執事の手の上にあるティーカップを思い切り跳ね除けた。