• テキストサイズ

〈短編〉H×H

第49章 Masquerade/アダルトリオ/乙女ゲ風パロ


「さぁ お支度を。急いで」

思いもよらない事態である。

目の前には大きな鏡、メイク道具や煌びやかなドレス 輝くアクセサリーがこれでもかと部屋に並べられている。きっとここはドレスアップルームなのだろう。鏡を覗けば ハウスメイドが何人も忙しなく部屋を往来している。不可解なのはこの部屋にいる私以外の全員が、白く浮き立つ奇妙な仮面を付けていること。

この状況の意味が全くわからない。

黒服に黒い帽子を深くかぶった男に変な香りのするハンカチーフを嗅がされた所までは覚えているが そこからの記憶がない。

「ああ!今宵はマスカレード。身分も顔も隠し夜な夜な甘美に踊り明かす道化の宴。我が名家の替玉に 実に相応しいマリオネットが見つかり光栄の極み。本当に姿形背格好までが我が娘にそっくりだわ…!」

水面の如く 青く輝く仮面をつけた太った中年夫人が鏡に映る。不安を覚える台詞に身が竦む。替玉とは、マリオネットとは、この場合 私の事だろう。

私以外の皆がバタバタ忙しく 踊るように足を移動させている。反論も質問も許されぬ雰囲気の中、勝手に身支度を整えられた。

「ああ なんて美しい…。真紅の映える白い肌、薔薇色の唇に 夜の蝋燭に透ける長い睫毛。淡く色付く頬にまだ少しの幼さが宿る…。マスカレードの主役を飾るに相応しい…!」

感嘆の声と共に顔に仮面をつけられる。メイドに手を取られ立ち上がると自分とは思えぬ姿が鏡に映っていた。

胸元が大きく開く真っ赤なビロードのロングドレス。肘まである袖口と裾は上品なレースで飾られ、豊かに広がるラインがドレスの質の良さを物語る。

首には揃いの赤いチョーカーを付けられ、胸元には大きなブラックダイヤモンドのブローチが蠱惑的に光っている。

長い髪は高くに上げられ 絹の黒いリボンが丁寧に巻かれている、ゆるく螺旋を描く毛先が鎖骨に美しいウェーブを作る。

額から鼻筋までを覆い隠すのは繊細な刺繍が幾重にも折り重なる金色の仮面。それが優美に 私の元の姿を隠し去る。

/ 346ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp