第46章 状態遷移/パリストン/シリアス死ネタ
「立場を理解出来てないのかなあ?」
彼の飾り立てられた優しさの実態を疑いもしなかった。残酷で無機質な愛だと言う事に気付くのが遅過ぎた。
「わからないなら教えましょうか。ああそうだ 僕と約束して下さい」
蝶のように華麗な彼の微笑みは 雁字搦めの蜘蛛の糸。耳に心地いい愛の言葉は 心を操る呪いの呪文。
「簡単ですよ。僕の言う事は何でも聞いて下さいね?」
答えは一つ。返事をするたび 少しづつ、緩やかに崩れ落ちてゆく。
「いい子ですね」
加速度が増していることにも、奈落に出口はないことも気付けないまま。
「好きだなあ、貴女のそういう素直で従順なとこ」
いつの間にか世界が楽園に変わり出す。
「たまには一緒に旅行でもしましょうよ」
彼の掌が恋しくて、彼の言葉だけが真実で。
「最近思うんです。貴女と過ごすこの時間はいつまで続くのかなあって」
幸せで狂いそうになる。
「貴女はどう思います?」
彼の作った箱庭の中で、彼の用意した花々に囲まれて。
「ずっと一緒にいたいと思ったのは嘘ではありません。ただ」
これから私は世界一幸せな花嫁になる。後悔はない。
「もう飽きちゃったんです。夢を見せて下さって…ありがとうございました」
窒息する感覚の中、お礼を言うのは私の方だと思った。
fin