第45章 mellow/パリストン/甘
パリストンは紐を指先でくるくるもて遊びながら 笑顔で質問を投げてくる。
「ええと、そもそも何の目的で作ってるんでしたっけ?」
「だからそれは!副会長に食べてもらいたくて」
「僕の為、ですか?」
「え?ん、………まあ」
「ならば本末転倒、考えてみたらおかしな話です。本物よりも本物へのオプションに位置するケーキに夢中だなんて。今目の前に僕という本物がいるのに。ね?」
パリストンは自然に距離を詰めてくる。曇りなく真っ直ぐなのに何故か逃げられない視線に捉えられる、気付けば調理台に両手を落とされ すっかり間に捕まっていた。
キラキラする髪の毛の一本一本までが完璧に計算しつくされたような彼を見上げる。料理場にはそぐわないコロンの香りがふわっと漂ってきた。
「頑張ってるようなので黙ってましたけど。実際の所僕はそこまで甘党でもないんです」
「え、?!」
「というわけで料理はお終いにしましょうか」
「そんな…」
こうと決めたらパリストンは譲らないし あの手この手で自身のシナリオを進めるだろう。そういう人間だと言う事を今更ながらに思い出した。
「僕の休憩時間は限られてます。僕の為に頑張ってくれる貴女を見ているよりも、僕本人に構って欲しいんですよ」
「それって、どういう……」
「わかりませんか?」
指先で優しく顎を掬われる。あまりにも手慣れたその仕草に つい眉を潜めたくなるが、有無を言わさぬ微笑に逆らうことなど出来やしない。
ゆっくり瞳を細める様をパリストンは満足そうに見下ろしたままだった。
「…………、何見てるんですかっ?!」
「いやぁ 睫毛が長いなと思いまして」
「か、からかわないでください!」
「いえ 少しも。貴女が僕に構ってくれて嬉しいだけです」
「…っ…。なんだかいじられてるとしか思えません…!!」
「あはは、可愛らしくてつい。愛情表現なんです」
「わかりづらいです!」
「“貴女のそういう所大好きですよ”って言った方がいいのかな?」
「~~~~っ、……」
結局は彼の手中、それも悪くはないしむしろ幸せであるのに 何故か素直に喜ぶことが出来ないままだった。
fin