第45章 mellow/パリストン/甘
ハンター協会 調理室。
今この瞬間、慣れないことはするものじゃないと身を持って経験している。カシャカシャとボウルに入る粉と卵を混ぜながら既にサジを投げたくなっていた。
「先程から何を作ってるんですか?」
「…。本日は終日副会長がいらっしゃると聞いたのでケーキでも作ろうかと思って」
「それは光栄だな。でもどうしてケーキなんです?」
「前に言ってたじゃないですか。甘い物好きって」
「ああそうですね バレンタインが近かったから」
キラめく笑顔であざとい事を躊躇なく言うパリストンにほんのり拗ねた顔を見せる。
その理由は現在の進捗状況が驚く程悪い為。本の通りにやっている筈なのにおかしな話である。
かれこれ一時間はキッチンに立っているが 道具を並べたり計量したりで 殆ど進んでいないのだ。
嫌味なのか励ましなのか。パリストンは調理場には違和感丸出しの派手なスーツに収まるネクタイを撫でながら 笑顔で話しかけてくる。
「でも楽しみだなぁ 手作りケーキだなんて。いつも有名パティシエの手掛けるものや老舗の高級品ばかりを差入れで頂くもので たまにはこう基本の味っていうのも悪くないですもんね。で、いつ出来るんです?」
「…いつかは、出来ますよ…」
曇りない眩しい笑みの内側には嫌味があるとしか思えない。
パリストンはひょいっとキッチンに入って来る。後ろから見られていると監視されるようでますます手の動きが鈍くなる気がした。
「……ちょっと!何するんですか!」
「つい。手持ち無沙汰で」
「なんですかそれっ」
「だって貴女があまりにもケーキに夢中だから」
するると背に結わかれたエプロン紐を静かに解かれ、それをツンツン引っ張られる。畳み掛けるように可愛さ満点のセリフを添えてくるからつい言葉を失ってしまう。