第36章 あなたの眼鏡/イルミ/使用人のイルミ様眼鏡観察
軽く添えられた指先に身体を引かれる、そして一気に顔を近付けられた。
こうして 彼と顔を重ねるのはもう何度目かわからない。なのに少しも慣れることはなかった。今だに心臓が激しく収縮してしまう。
彼は綺麗なアンドロイドのよう。きめの細かい肌は相変わらずだ、羨む程にみずみずしくて透明で。大人しい色味の唇は淡く開かれ品ある官能を匂わせる。くっきり浮いた鼻筋は真っ直ぐに高く、表情の無い彼の顔に綺麗な影を作り出す。秀麗さを漂わせるなだらかな細い眉も、額から流れる艶やかな髪も、彼の全てに目を見張った。彼は優雅な動きでもって少しだけ顎を上げる。視界に大好きな顔が映る。
10センチ、5センチ、1センチ。
互いの顔が重なる刹那、彼は一度だけ、小さく左右に首を振る。
頬にかかる髪を払うその仕草は私だけの宝物だ。
誰にも奪えばしないし絶対誰にも渡さない。たとえこの先、彼が誰を愛そうとも、誰と添い遂げようとも、私より近くでそれを見れる人間なんて現れやしない。この時間を守ることが私の生きる喜びだ。
長い黒髪の合間からちらりと彼の耳が覗く。そこへ触れたくて いよいよ。大きく開いたこの身で彼の全てを受け入れる。
ぺらり、と頁をめくる音を聴く。』
「なに?さっきからじっと見て」
「はっ、いえ……僭越ながら」
「うん」
「僭越ながらイルミ様の眼鏡の気持ちを考えておりました!!」
「は?」
fin