第7章 雨宿り/クロロ/極微甘
「クロロ…」
服からポタポタ滴る雨の雫でフローリングを濡らしながら クロロに近付いた。クロロは厚い本から目を離さず、窓際近くの椅子に腰掛けたままだった。
「寒い…」
小声でそう言い クロロの隣に膝をつく、そして濡れた額をクロロの腕にそっと擦り寄せた。まるでこちらの存在を無視するように クロロは微動だにしない。ほんの少しでいいから温もりが欲しくて、綺麗な横顔をねだる表情で切なく見つめた。
「私雨に濡れて、こんなに震えてるのに…抱き締めてもくれないの?」
返ってくるのはペラリと頁をめくる紙の音だけ。
もしかしたら本の世界に没頭し こちらの声すら届いていないのではないかと思ってしまう。
「本当に冷たいよね…クロロは」
期待なんて愚かな事だと知っている。
そんな無意味な感情はこの降りしきる雨が洗い流してくれた筈なのに この後に及んで残っているのだから我ながら滑稽で仕方ない。
「部外者のお前を入れてやっただけ 有難いと思え」
視線すら動かさず まるで本の一文を朗読するべく無感情にそう言うクロロの声を受け、死体の転がる散らかる部屋を見渡した。これはただの雨宿りで、クロロは数時間後には 自己都合で用意したこの部屋をあっさり出て行くだろう。そんな事はわかっていた。
「……うん。ありがとう クロロ」
クロロの座る椅子の隣に 膝を抱えて腰を下ろした。相変わらず濡れた身体は冷たいが 無情無比なる男の優しさに にわかに笑みが溢れる。このまま雨が止まなければいいのに、と 勝手な想像を巡らせる。
それを断ち切るように また、頁をめくる音が残酷に時を刻んでゆく。
fin