第6章 求愛/パリストン/セクハラ/ほのぼの甘
パリストンの掌が最大の弱点を撫であげる。敏感な尻尾の先端部を指先でまあるく突かれると 腹の中までビクビク刺激が伝わってくる。きゅうと熱が溢れてきて 揺れる爪先が上質なスーツに引っかかった。
「にゃ…ぁ…っやめて!」
「尻尾が性感帯だなんて卑猥な人ですね」
何とか上半身を起こしパリストンを思い切り睨んでみる。
とろんと潤んでいたはずの子の目はいつの間にやら標的を狙うハンターの眼、いやむしろ、捉えた獲物をどう捌くかを模索する犯罪者の眼だった。
満悦の滲み出るパリストンの表情は月明かりの下で陰影を増す。その雰囲気は冷徹で獰猛、子どころか小動物を喰い物にする猛禽類みたいだ。
見下されていると弱肉強食の最下層にいる己の卑小さがよくわかる。ギラギラする目で精一杯の威嚇をした。
「……因みに」
「にゃ、ア…っっ!」
弄ばれていた尻尾の先にカリ、と歯先の感触を受ける。
身体に亀裂じみた衝撃が走った。
「噛むのは子の専売特許なんですよ」
ぴくんと背が反ればそれを宥めるよう尻をするする撫でられる。不埒な唇を注射針にし、尻尾の先から興奮物質を打たれたみたいだった。
「ぁ…ソコ噛んじゃ、ダメぇっ」
「あれ 発情してきちゃったかな?」
「…っにゃ、違…っ!!」
「雌の匂いがしてきましたよ」
最後に触れるのは唇の先、とろけるキスをするならばまずは場所が違うであろう。
「今夜はリネルさんの中で愛し合いましょうね」
「どういう、意味ですか………っ」
「もちろん生殖活動です」
「だ だれか…!!!」
助けを呼ぼうにも誰も来てはくれない、むしろ誰1人とてこの場から姿を消しているではないか。動物達は自己欲求に素直過ぎるみたいだ。
鋭利なはずの猫の牙も、子らしからぬこの男の前では飾り物にすらならないらしい。注入物質が増えれば増える程、身体の感覚がゆるゆる痺れてゆく。
猫が子に噛み付かれる瞬間まで、悲しくも時間はかからなそうだった。
fin