第33章 噂の教官/イルミ/教習所パロ
まずは一般道。交通量はまずまずと行ったところか。リネルは慎重に車を進めていた。
「もっと踏んでいいよ」
「え」
「踏んで もっと強く」
「でも、あの…」
「いいから。もっと踏んでよ」
第一印象でどS感溢れる将校と位置づけた教官が「もっと踏んで」と懇願してくるので、頭の中では変な想像をしてはみたものの。
「あのう…この道路は法定速度30キロですよね?」
「うん」
「このままじゃ超えちゃいますが…」
教官はさっと腕を組む。ふいに顎を上げる仕草はやはり完全なる上から目線に見えた。
「座学ばっかのコってこれだから。今後苦労するよ」
「えっ?!」
「こんなに見通しいい道路を速度守ってちんたら走ってたら間違いなく煽られるって言ってるの」
「ええ?!でも、…」
「極論を言えばサツにばれず事故を起こさなければいいんだからさ。もっとスピード出してみてもいいよ」
「はあ…」
結論①:
噂の教官は意外とやんちゃみたいだ。
次に差し掛かったのは勾配がある登り坂。教本にあった通り、リネルは停車と共にきちりとサイドブレーキを引く。
「ふうん。わざわざサイド引くんだ」
「えっ…?間違ってましたか?」
「間違ってないよ。でも坂道発進てコツ掴まないと難しいからね、工数は少ない方がいい」
「でも…本には…」
ふと、教官がこちらを向く。
左手を運転席のシートに掛け 上半身を回し大きく後ろを振り返る。
この仕草は世に言う「女子がときめく瞬間」TOP3に入る駐車時の後方確認(助手席ver)だ。
素早く体勢を戻す教官からとてつもなくアダルティな良い香りがしてさすがに集中出来なくなった。
「あのぅ……っ」
「サイド使うかは後続車の車種を見て決めたらいい」
「え?」
バックミラーで見てみれば、後ろにいるのはCMで話題のミドルレンジのファミリーカーだった。
「ロールスロイスだったらさすがに引いた方がいいかもね。ベンツクラスなら強めにブレーキ踏んでおけば十分だよ」
結論②:
噂の教官は独自の交通マニュアルをお持ちらしい。