第33章 噂の教官/イルミ/教習所パロ
教習所通いも慣れてきた頃、いよいよ実践としてホンモノの車に乗る事に。担当になった教官はそこそこ噂の人物らしかった。
「よろしくお願いします…っ!」
「よろしく」
教習所のロゴの入る車の前で担当教官と対面した。教官と言えばタクシードライバーみたいなおじ様を想像していたが 随分と若いお兄さんだった。
『担当教官がさぁマジキモくて!!加齢臭ハンパないし逐一発言がセクハラじみてるし!運転に関係ねえっつーの!マジ拷問だった!!!』
ぽけっと教官を見上げながらリネルは先日ようやく免許を取得した友人の台詞を思い出していた。比較をすればどうだろう、きっとリネルは日頃の行いがよいのだ。
確かに噂になるだけはある。モデル並みのスタイルを誇る教官は放つ雰囲気もピシリと締まり魅力的だった。教習所指定の制服を着た姿は高い上背と独特の髪型のせいでどこぞのお国の軍服を着た軍人みたいにも見える。ミスをしようものなら制裁に鞭でも出てきそうな勢いだ。
噂の真相は、如何様か。
「はじめようか」
教官はしらりと言い、助手席のドアを開ける。早く乗れと促されているようでリネルも緊張したまま運転席に乗り込んだ。無言でシートベルトを留める教官を真似 リネル自身もがっちりシートベルトに身を固めた。
いよいよ車内で2人きりになる。最初の指示を待ち隣をちらりと伺った、教官の横顔は整っていて人形みたいだった。
「車ってさ」
「あ、はい」
「とても便利で今や生活の必需品になりつつある」
「はい そうですね」
「でも乗る時は十分気をつけて」
「はい」
「一瞬で人間を殺す凶器になるから」
確かに仰る通りではあるが。このタイミングで、しかも真顔で、尚且つそんな言い回しで、きっぱり告げられるのは辛いものがある。
教官はこちらの空気感を読みもせず 持ち込んだファイルをペラペラめくり出した。
「へえ 座学は優秀だったみたいだね」
「あ、はい。暗記は得意で」
「そう それなら安心だね。エンジンかけて」
「はっ…はい!」
学んだ通りに。ブレーキペダルを踏みサイドブレーキを上げる、キーを捻ればいよいよ実習のスタートだ。