第5章 真夏の絶対零度/イルミ/ヒソカ/教師パロ/完全無糖
黙々と続くイルミの手元作業を盗み見る。
誤解答には赤ペンでチェックを入れ 不要な描写を二重線で削る、足りない箇所にはくの字で補足。そんなことを繰り返している彼の仕事は、まだ半分以上も残っているようだった。
「何がズルいんだい?」
「解答が2とかXとかわかりやすいのばっかりでさ」
「証明問題、なんてのもあるよ。もっともボクは回答を全て選択式にしてるけど。キミもそうすればイイのに、採点ラクになるよ」
「そうするとテストをハナから投げてる奴は適当に選ぶだろ、それで正解したらきちんと勉強してるコが気の毒だ。言葉の表現や使い方は自ら考える力を付けないと意味がないし」
「さすが。教師の鑑だ」
イルミが世襲で教員をやっているとの噂を耳にしたことはあるが、今時真摯に教育に打ち込む教師なんて珍しい方だろう。少なくともヒソカ自身はそう思っている。からかうつもりで褒めたのにイルミは全く見向きもせず、再び答案に向き合っていた。
彼の仕事の終わりに付き合う義理はない。
ヒソカは回転椅子の背に片手を掛け 立ち上がろうとした。
「そういえばさ、」
「なんだい?」
「この前お前のクラスのコに告白されたよ」
この仕事をしているとこういった事は意外と珍しくない。
やや見てくれのいい男性教諭と言うだけで、多感気な女子生徒は興味やあらぬ妄想を抱くものだ。ヒソカは再び椅子に腰を下ろした。
「モテモテだねセンセ♡ ちなみにどのコ?」
「このコ」
イルミの視線は赤の評価が降る前の答案用紙。
横からそれを覗き込む。
「ああ 彼女か」
ヒソカはそれを手に取り、自身の目の前にスライドさせる。
A4紙をじっと見つめた。
彼女はこんな文字を書くのか、と思った。高校生ともなればいくら担任とはいえ生徒と教師が文字のやり取りをする機会は殆どない。数学の試験は全て選択問題を採用しているし見るのは記名くらいなものだ。そして名前など注意を向けて見るものでもない。
「……彼女がねえ」