第26章 強く賢く生きる方法/イルシャル双子設定/現パロ/死ネタ
吐き気を催し口元を両手で覆う。その場に膝を折り 頭を深く落とした。
「…うぇえ…っ」
質素な食事しかしていないし 吐き出されるのは酸味の強い胃液ばかりだ。繰り返される嗚咽につられ大きく背中が上下する、イルミの手のひらがそこを何度か往来する。
「大丈夫?」
「……」
「リネル 殺し初めて?」
「…………………うん。殺されそうになったことは あるけど」
生理的な涙で歪む目の前の吐瀉物を見ながら リネルは小声でそう応えた。異臭が鼻腔を刺激する。
「気にする事ないよ とどめさしたのオレだし。こういうのはすぐ慣れるから」
「慣れる…………?」
殺しに慣れる。
頭の中には数ヶ月前のシャルナークの様子が思い出された。
イルミもシャルナークと同じだ。人を殺めておきながら迷いも後悔も何もない。
“強く賢く生きなさい”
いつかの教えが頭を回る。
きっとこの2人にとって 殺人術は強固たる武器であり、邪魔な人間は殺せばいいとの判断は 彼らなりの利発の現れなのだろう。
容姿の異なる双子であるがゆえ 様々な憶測が絶えなかったが 酷似した思考は紛れもなく彼等は二卵性双生児だと語っている、そんな思いがした。
「とりあえず逃げなよリネル。まず犯人として割れるのはオレだし 一緒にいるとリネルも都合悪いしさ、どこかに身を隠してしばらく大人しくしてる方がいいかもしれないし………」
助言にも取れる説明をイルミはつらつら話していたが その半分以上は耳からつつ抜けていた。
“強く賢く生きる”
その為のヒントはシャルナークとイルミが身体を張って教えてくれた。
しかしもう、リネルにはついていけない。人を殺して尚 それに慣れるなんて出来やしない。リネルの心と体が、本能がそれを知っている。
「………………イル!!」
話を終えると すぐにその場を去る背中を見つめ リネルはイルミを呼び止める。振り返るイルミの姿を視界に収め 精一杯の笑顔を見せた。