第26章 強く賢く生きる方法/イルシャル双子設定/現パロ/死ネタ
いつの間にか 娘の背中は目の前だ。
この場で異色なのは痴情にあぶれたリネルの方、しかしそれは真実ではないとイルミの黒い視線が物語っている。
もしかしたら既に娘はリネルの存在など これっぽっちも覚えていないかもしれない。それならばいっそ、そちらの存在も消してしまえばおあいこだ。
ドクドク ドクン ドクンッ
心臓が張り裂けそうな鼓動を刻む中、きつく目を瞑る。花瓶を頭上に持ち上げ、それを重力に任せて娘の後頭部へ落とした。
ゴトン
初めて芽生えた殺意をうまく消化しきれず 力一杯叩きつける事は出来なかった。ただ落とされただけの花瓶は絨毯の上に転がり、綺麗なままの百合と水がそこへ雑な染みを描いている。
「な、な……に……?……っ」
後ろからの衝撃に 放心した顔の娘がゆっくりこちらに振り返る。その目はすぐにリネルを捉える。
興奮と恐怖を宿し 血走る瞳、怯えてしまうのはリネルの方だ。言いようのない懺悔の念が押し寄せてきた。
「リネル もう一度」
イルミの声がする。イルミは娘の頬を雑に掴み、再び自身の方に向けさせる。その手には既に 男女間を彩る濡れた艶めかしさはない。
ここまで来てしまったら もう戻る事は出来ない。意を決するしか選択肢がない。
言われるままに花瓶を拾い直す、そしてそれを思い切り叩きつけた。
ガシャン っ
鈍い音と共に 足元には荒く破片が散らばった。まるで糸を切られたマリオネットのように 娘の身体がゆっくり床に落ちてゆく。
「……はぁ、っはあ はあ はぁ はあ はあはあはあ はぁっ」
万事の終わりに 止めていた呼吸がリネルの胸を荒立たせる。困惑の表情を浮かべ イルミを見上げた。
「イルっ あの、」
「安心するのは早い。まだ死んでないよ」
イルミは娘の横に腰を落とし 首元のネクタイに指を伸ばす。膝で娘の背を押さえ 細い首に抜いたネクタイを素早く回す。
ギリギリと骨までを締め付ける音が聞こえてくれば、醜くもがく娘の手が 散らかる百合を掻き毟る。