第5章 真夏の絶対零度/イルミ/ヒソカ/教師パロ/完全無糖
太陽が溶けて落ちてくるんじゃないかと思うくらいに暑い夏、時は放課後に近づいていた。
渇いたグランドの上で、野球部は今日も精を出しランニングを始めている。吹奏楽部は県大会が近いらしく、この時間から毎日遅くまで汗だくになりながら基礎練習と課題曲の反芻を行なっている。煩い蝉の声は茹だるような季節に拍車をかけるだけだ。
6時間目を終えれば部活顧問を持たない教師は少しの休息の時間である。
それを読んだ上で足を進ませた。目的の先生が授業後職員室へ帰る際、あえて人の少ない廊下を使う事を知っていた。あの背格好を見るだけでドキドキしてたまらなかった。
「先生のことが好きです。」
高校三年の夏、募りに募らせた胸の内を単刀直入に告げた。今まで何度かイルミに直接教わる機会はあったが、2人きりで話したことは一度もなかった。教師と生徒なんてそんなものだ。
先生のどこが好きだとか、どれくらい好きだとか、細かい事は分からなかった。ただただ好きで2年半も想いを馳せ続け、頭の中が先生でいっぱいだった。先生の事しか考えられなくて 先生になら何をされてもいいと思っていた。
「先生のことが本当に好きなんです。」
「そう。でもオレは教師でキミは生徒、それ以上でもそれ以下でもないから気持ちには答えられないよ」
「……でも好きなんです。」
「オレにも立場ってモンがあるからさ。そう言われても困るんだよね」
はっきり困ると言われてしまった。
先生は少しも喜んでいなかったし、怒ってもいないし驚いてもいない。先生は表情を無にしたまま、告白をしたところで 複数いる他生徒と同列のままだと思い知らされた。
「気持ちはもらっておくからさ。もう行きなよ」
「………どうすれば先生に見てもらえますか。」
「どうって言われてもね」
ふと、視線を落とし 袖口にほんのり付着したチョークの粉を叩く。そんな仕草と共に一筋落ちる黒い髪はどこまでも摩擦がなく この温度とは別次元にいるみたいだった。
開けられた窓から入ってくるのは視界が歪んで見える程ジメジメ熱い空気ばかり。なのに先生はとても涼やかで、そんな所も大好きだった。
先生を困らせたくて告白をした訳じゃない。破裂するほど熟れてしまった心に 少しでいいから水を掛けてもらいたかっただけだ。