第4章 パーミッション/イルミ/微甘/微裏
ゼノの声の後ろではあのパーティー会場の音楽、給仕や雑談の声もする。ゼノがどこで何をしているのかは明白だった。
『仕事は終わったがの。会場内になかなか面白い古客がおってな 営業も兼ねて顔でも売っておいたらどうかの、と思うて』
「ああ そういうこと」
『特別にタダで紹介してやるぞ』
「まあ…気が向いたら行くよ」
イルミはぶつりと無線機を落としそれをポケットにしまい込む。
何事もなかったかのように 無言のまま首元に顔を埋めてくるイルミにそっと抱きつき、リネルは小さな声を出す。
「…行っちゃうかと思った…」
「こんな状態で行けると思う?」
取られた片手を下半身に導かれた。はち切れそうな熱を帯びているのは自分だけではないようで、そこを控え目に撫でてみる。
指先から伝わるその硬度が、温度が、身体を疼かせてたまらなかった。
「…イルミ」
「なに?」
薄暗闇で互いに見つめ合った、黒い瞳に囚われる。
甲板で落ち合った瞬間から 今夜はこうしてイルミを独占する腹積りはあった。あとはリネルの方から 確たる許可を呈するだけだ。
「…ここじゃヤダ…ベッド連れてって」
「いいよ。」
本日初めて言えた最大限に甘えた言葉は難なく受諾された。イルミは柔らかな手つきでもって、リネルを静かに抱き上げた。
降ろされた広いシーツはしなやかでとても冷たかった。
本日はまやかしの夜なのだから それくらいが丁度良いのかもしれない、なんて皮肉が胸中を過ぎる。
きちんと靴を脱いでからベッドに上がり込んでくる、そんな些細なイルミの所作ですら大切なファクターに思えてしまう。黒い影を落としてくるイルミを力なく見上げてみる。
「……っ好きだよイルミ」
これは何もかもに陶酔しているせいだ、絞り出すような声だったが 何故か素直にそう言えた。少しだけ物珍しそうに きょとりとするイルミがとても愛おしくなる。
「リネルがそんな事言うなんて珍しいね」
「…言っちゃ、ダメだった…?」
「いや いいよ。」
「…好き イルミ…」
「どうしたの?今日は」
「…わかんない…」
今はまだ曖昧でも焦る事はない。
今夜この部屋の中では くどいまでの愛を語る許可を得ている。許容値を超えたってもう関係ないのだから。
fin