第26章 強く賢く生きる方法/イルシャル双子設定/現パロ/死ネタ
食事が終わり 食後のお茶を用意していた時、中年の主人が娘相手に声をかけてくる。
「お前も来週からはいよいよ本格的に社交界デビューの為の準備期間だな」
「ええ お父様」
「お前は母さんに似て美人だから 回りの注目の的だろう。ひっきりなしに声がかかるだろうな」
「ほほ そうね。あなた」
「お父様 お母様も、からかわないで下さいな」
クスクス含みをもって笑う夫人も 満更でもない顔をしている娘も、リネルから見ても羨むほどに美しいのは明白だ。
「リネル リネルってば。紅茶のおかわり」
「あ、はい お嬢様」
「ねえ 言われなくても自分から気付いて声かけるべきじゃない?」
「大変失礼いたしました」
棘のある口調はいつものこと。細やかな手先でカップを差し出してくる娘の指には 重そうな宝石のついた指輪が眩い光を飛ばしている。先日 どこぞの油田王から送られた代物らしいが、ちらりとリネル自身の手に視線を落としてみれば 水仕事でかさついた手はささくれがいくつも目立っている。年齢も性別も同等であるのに 育ちが違えばこんなにも生活に開きが出るのか。それを嘆いた所で何にもならないのだが それがやたら心に染み入る日だってある。
「これからは外出や遠出の機会も増すだろう。お前に一人護衛を付けようと思うんだ」
「護衛ですって?」
「ああ 世の中物騒だろう。大事なお前に何かあってからでは遅いからな、入りたまえ」
主人の声を受け 皆の視線が大きなドアに集中する。部屋に入ってくるのは 長身で黒いスーツに身を包む男だった。
「まだ若いがなかなかの実力者らしい」
「…っ」
イルミだ。彼の周りだけ時間が止まったような独特の空気感には 懐かしさしかない。リネルの目はイルミに真っ直ぐ釘付けになる。
先方もすぐにリネルの存在に気づいたようで 一瞬だけしっかり視線がぶつかった。ただ、それ以降は一切目を合わせようとしないイルミの態度を汲み 互いに勤務中であることを思い出す。リネルもゆっくり視線をそらせるしかなかった。