第26章 強く賢く生きる方法/イルシャル双子設定/現パロ/死ネタ
やりがいはわからぬまま、指名が入るかもわからぬまま、期待だけを込めながら 今日も薄い酒を喉に流し込んでいた。
ある日の深夜。接客の仕事にもだいぶ慣れてきた頃だろうか。
リネルはアルコールの回る自由の効かない足元で 狭く細い路地を必死に走っていた。
「はあ はあ はぁっ」
「待ちやがれ このアマァ!!!」
後ろからは幾つかの足音と激しい罵声が鳴り、それは恐ろしくも耳の奥まで絡み付いてくる。
何故こんな事になっているのか、明確な理由と諸悪の根源はわからなかった。けれど一つだけはっきり理解出来るのは、“捕まったらいよいよ最期”という事だ。
そう思えば思う程 身体が言う事を聞かない、足はもつれるし 揺れる視界は行く道を阻んでしまう。命がけの鬼ごっこはあっという間にケリがつき、リネルは簡単に捉えられ その場に叩きつけられてしまう。壁にぶつかる身体には 乱暴な感覚が走った。
「舐めやがって!!!」
「………ッ」
数人の男の影に身体が隠れ 反射的に目を瞑る。次に伝わってくるのは 脳みそがグラグラ揺れる様子と殴打の音、口の横が重く痛んだ。
「くは…っ、…」
「うちの組から金借りたままトンズラかまそうなんざ太ぇ真似すんじゃねえか あぁ?」
髪を掴まれ頭を強制的に起こされる、毟りとられる細い髪の毛が 嫌な音を出す。何の話なのか意味がわからなかった。そもそもリネルには 金を借りた覚えなんてない。
◆
「お願いがあるんだけど。今日は別店舗でお客様フォローしてくれる?」
「はい わかりました。」
この会話は記憶に新しい。何の疑問も持たず指示に応じれば、行き付く先の店では何故か飾り気のない個室に入れられることになる。
「………ッ、」
すぐに現れる鼻息の荒い客の様子には嫌な予感しかない。店と客の間では決定事項である契約は明らかで、抵抗をしようものなら異質なのはリネルの方だった。
そもそも不審に思うのが遅かった。1度で済むはずもなく 待ったをかける間もなく、要求はどんどんエスカレートしてしまう。