第26章 強く賢く生きる方法/イルシャル双子設定/現パロ/死ネタ
肉体を酷使せず愛想笑いで金が得られるならばこんなにいい話はない。むしろ何故、今の今までのこの選択肢に気づかなかったのかとすら思う。
リネルはあっという間に男の口車に乗る。派手な化粧を施され 髪を独特の形に盛り立てる、露出度の高いドレスを着れば見た目だけはすぐに夜の世界の溶け込む事が出来た。嘘の名が記された名刺を忍ばせ客の隣で膝を寄せる日々がスタートした。
「新入さん?かわいいねぇ」
「あ、ありがとうございます」
元々口達者な方でもないし、客との会話はしどろもどろになったり上手く弾まないケースも多かった。それ故、聴く姿勢にばかり徹する姿が受けたのか 一部の客には指名をもらえる事もあった。
「お疲れ!リネルちゃんだっけ?最近頑張ってるよね~」
馴れ馴れしく声をかけて来るのは 見たこともないキャッチの男。人材の入れ替わりが激しい店舗であり 初めにリネルをここへ引き入れた男は いつの間にか姿を見せなくなっていた。それを少しも疑問には思わなかったが、慣れてゆくにつれ これはこれで楽な仕事ではない事を知る。
似た境遇にいる同性同世代の友人でも出来たら、なんて甘い期待は徐々に無意味だとわかってくる。ここでは同僚は皆ライバルで 客の気の引き合いと数字の競い合いばかりが続く。昼夜を問わない勤務形態は、いくら若いとはいえ 疲労は溜まるし眠い日も多かった。休日こそはゆっくり出来るかと言えばそうでもなく、次の指名の為に メールやら電話で営業をかける必要がある。不規則な生活のギャップを埋める為、ただ寝て過ごす日も多い。結果、自分の時間など殆どないに等しい。そもそも誰のためにやっているのだろうか、その目的がわからなくなっていた。
しかしながら 給与という面では 今までとは随分違っていたのは確かで、この仕事を辛いと感じる反面なかなかやめられないのは事実だった。ただし、それは当然 指名を取れた場合に限る話である。