第26章 強く賢く生きる方法/イルシャル双子設定/現パロ/死ネタ
身を乗り出し質問してくるイルミの問いには 誰も答えられなかった。よくわからぬまま1番人気を3つ注文し、店員に促されアイスコーヒーも付けてみる。フリルたっぷりのエプロンをつけた女性ウェイトレスが、すぐに注文の品を目の前に運んでくれる。苺を贅沢に使ったケーキをしげしげ覗き込む彼等の瞳は まるで子供みたいだった。
「苺でかっ!」
「うわぁ キラキラしてる~」
「あ、でもよく見たら横に乗ってるのは半分なんだ」
苺にばかり目がいく3人が それぞれの感想を述べる様子が面白いのか、控えめにクスクス笑うウェイトレスの声が耳に届いた。
直にお目にかかるのは人生初、そんな大迫力を誇る苺のタルトに 両手を合わせてからフォークを入れる。美しいフォルムを乱さぬよう小さくカットしてみれば、タルト地がぽろっと崩れてしまう。一体どんな味なのか、期待ばかりが高まる中で 最初の一口を食べてみた。
「…苺ってこんな味だったっけ?」
「…わかんない…」
「酸っぱいね」
ケーキとは舌に甘くとろける食感を持つ食べ物であった筈。中でも王道食材として記憶されている苺は、彼等の中では至極の贅沢品として分類されていた。
味覚は正直で、期待が裏切られたのは当然の事。年にたった一度 クリスマスの夜にのみ食べる機会があったケーキは、安いクリームと穴だらけの欠陥スポンジで作られていた。砂糖の甘さで誤魔化されたケーキに乗る苺は 小粒だったりカットされたものばかり。当然、中には入れられておらず シロップで強制的味付けを施された缶詰めの果物が入っているならば まだいい方だった。それでもそれが彼等にとってのケーキであり、あの味の方が余程舌に優しく美味しかったと思わざるをえない。
何故か添えられているナイフは使い方がよくわからない。華奢なフォーク一本で苺のタルトを少しづつ崩しながら、そんな事を考えた。
「あ、でもこの下の固い所は結構美味いね」
「でも下の固い所ボロボロしてうまく食べられない…あ、ナイフですくう?なワケないか…」
「普通の白いヤツにすればよかった」
門出を祝うはずのケーキへの期待は見事打ち砕かれた。やや微妙な空気のまま、喫茶店での時間を終えた。