第25章 秘め事/社長イルミと秘書夢主/現パロ
ずっと待っていた指摘に少しだけ顔が綻ぶ。種類によっては熟成1年で飲み頃のものもたくさんある。今回はあえて品種と寝かせた期間が噛み合わないものを用意したのだ。その理由を説明する。
「本日は社長と奥様の結婚一周年記念日でございますので」
「ああ そうだっけ?忘れてた」
「差し出がましいようですが お電話くらいはして差し上げては?」
「別に話すことないし」
「社長の奥様は我が社の最重要販売店の会長令嬢ではありませんか。良好なご関係を保っていただかねば 広い意味では今後の業績に関わります」
「言われなくてもそれなりにはやってるよ」
「そうでしたね、来春にはお子様もお生れになりますものね。大変失礼いたしました」
イルミは興味がなさそうに目線を前に戻し、足を組んでから片手を差し出した。
「明日の会議資料見せて」
すぐ様ワイン横に置かれたタブレットに手を伸ばす。指定の資料を表示した上でそれを手渡しながら言う。
「一通り目を通しましたが センスの良いプレゼン資料に仕上がっています。インパクトは十分かと」
イルミの目元は明るく発光するタブレットの画面に落ちたまま。この部屋に入ったときと比較をすれば髪型も服装もだらしなく乱れてはいるが、雰囲気だけはすっかり普段の社長に戻っているイルミを見ながら告げる。
「お疲れ様でございました。明朝5時に起こしに参ります」
「うん」
「おやすみなさいませ」
「うん」
こちらには目もくれぬまま、生返事を返すイルミの部屋を去る。
あと数時間もすればリネルの選んだネクタイと濃いめの珈琲、そして1日ぎっちり詰められた怒涛のスケジュールをチェックする。そんないつもの朝がくる。
fin