第4章 パーミッション/イルミ/微甘/微裏
こんな事を他人にやってもらうとなると恐怖を覚えるのは至って普通だろう。イルミは御構いなしに指先を睫毛にまで近付けてくるのだからたまったものではない。リネルはイルミを押し返した。
「やだ…っやめて」
「じっとしててよ」
「ん…っ」
イルミの指の間に髪を引っ掛けられ 後頭部を押さえられた。すぐに迫り重なるのは 懇願して止まないイルミの唇だ。
リネルの口内を円形に数回堪能した後 イルミは右眼に唇を寄せてくる。目尻をしっとり舐められた。さすがに先の展開が見え 逃げようとするが既に遅かった。
「イル…っ…や………!」
眼球とは温度を感知するのだろうか。下瞼から角膜に、躊躇なく触れてくるイルミの舌は随分と暖かく感じられた。とはいえ、異物が触れることには強い違和感がある。湧き上がってくるのは生理的な涙ばかりだ。リネルは身の動きを封じながら 眼球を守ろうと必死に視線を外す。
「っ……」
「取れたよ」
曇る視界を何とか開いた。微かに覗くイルミの赤い舌先に乗るのは 同じく燃えるような赤をしたひしゃげたソフトタイプのコンタクトレンズだった。イルミはそれを指先で摘み 置き場所を模索すべく軽やかに頭を上げる。黒目を左右に動かした後、コンタクトの乗る手先をこちらに近付けてきた。
「…な、なに…?」
「証拠物は残せないから。飲んじゃえば?」
「え……」
そういうやり方もあるとは思うが進んでやりたい訳ではない。口内に押し込まれる薄いコンタクトレンズの感触にリネルの表情が固まった。広いイルミの掌はリネル前髪を拭い 現れる額にそっと唇を寄せられる。
「そういえばリネル カツラはどうしたの?」
「…海に、捨てた…」
「え?ダメだろ 勝手なことしちゃ」
再び唇を奪われた。侵入してくるイルミの舌は飢えた生き物のごとく意思を得ているようで、思うがままに口内を貪られた。息苦しさに理性が犯されてゆく。
「証拠物は確実な方法で処分しなきゃ。海のど真ん中とはいえ勝手に捨てるのはルール違反だよ」
「…うん…ごめん」
弱々しく謝罪を返した。そういえば 都合よく消えたコンタクトはどこへ言ったのだろうか。
涙の止まらない右眼は尚も、じくじく違和感を孕んだまま。濡れっぱなしの目尻に優しいキスをされた。