第24章 唐揚げ白書/シャルナーク/死ネタ日常
「兄ちゃん見ねえ顔だな 新入りか?」
「うん。まあ」
次は自分の番という時、後ろに並んでいた男が馴れ馴れしく声をかけてきた。シャルナークは適当に答え男を盗み見る、身長は低いがガタイが良く 顎髭を派手に携え薄汚れた作業着を着ており“いかにも”という出で立ちだった。
「ここの唐揚げ弁当は絶品でよ、何っ度食べても全然飽きねえのよ!毎日毎食でも食いたくなるんだ」
「へえ」
「この山の男達は皆これを食べて山削ってんだ、ここの唐揚げと嬢ちゃんの笑顔が元気の源ってぇワケだ」
「そうなんだ」
そういえば看板もメニュー表もない、お品書き全てが唐揚げ択一らしかった。今は腹を満たせればそれでいいので文句を言うつもりはない。前の男が去った後、破れかけの暖簾をくぐり 明るい店に顔を乗り出した。
「唐揚げ弁当ひとつ」
「はい!いらっしゃっ………いませ」
元気な声の主は随分小柄な若い娘だった。先程までの威勢はどこへ行ったのか、挨拶の語尾は消え入りそうな程小さくなっていた。
理由は単純である、この鉱山の地域柄 若い人間や長身の男は殆どいないので シャルナークのような男が珍しいのだろう。後ろの男にも娘の反応は明白なようで 勝手に会話に入ってきた。
「がっはっは 嬢ちゃんサービスしてやんな、この兄ちゃん新入りだそうだ」
「そう、なんですか」
ほけっと放心していたのは一瞬で、娘はすぐに手を動かし始めた。手際が良くて全く無駄がなかった。
シャルナークは 気持ち良く詰められてゆく弁当を見ながら ふとした疑問を投げてみた。興味がある訳ではないが 若い女がわざわざこんな不便な場所を選び商売をする理由は何だというのか。今日はそれに助けられる事になるのだが。
「ねえ。キミは何でここで弁当屋をやってるの?」
「ここは元々は祖父の店なんです。祖父も鉱山マンだったのですが不慮の事故で脚をやられまして。それでも山を離れる事が出来ず考えた末に行き着いたのが、鉱山で働く人達のために このお弁当屋さんを開く事だったんです。」
「成る程ね」
「祖父は唐揚げが大好物でして納得のいく味を何年もかけて追究したらしくて。それを父、そして私が守っているんです」
「そっか。偉いね 若いのに」
「偉いのは祖父です。愛する山と唐揚げを諦めずに 多くの人に喜んでもらえるお店を作ったんですから」