第24章 唐揚げ白書/シャルナーク/死ネタ日常
「寒ッ」
ティールス共和国ブレイド地区、北緯60度付近に位置するこの場所はとにかく気温が低い。2日後にはここである仕事が控えていた。
今回の目的地である“鉱山”への潜入ルート確立の為、事前に張込み状況と難易度を把握する。これがシャルナークの役割となった。
事前情報は得ていたので普段よりは厚着で来たつもりだったが自然の猛威は甘くはない。手はかじかむし、自身の白い息は途絶える事がない。
大きな溜息は益々視界を白く濁らせる、シャルナークは顔を上げた。掴めそうな満天の星空を見上げ ぽつりと独り言を呟いた。
「……腹減ったなー」
ここに来てから既に丸一日、食事らしい食事をとっていない。来る途中に立ち寄ったコンビニで 素早く盗ったパンを二つ食べただけである。
改めて辺りを見回してみる。ここはいかにも鉱山らしく 山という山しか見当たらない。そこで働く男達が忙しなく鉱物を掘り出したり 滑車を使って土を運び出したりしている様子のみ、そろそろこれも見飽きるものである。
もう少しだけ視野を広げてみれば、暗い寒空の下 小さな小さな灯りが見える。もう何十時間もここで張り込んでいるのだから それが何なのかある程度の予想は立っている。
異様にずんぐりした鉱山男達が時々そちらへ向かうその場所は、十中八九 飲食店であるのだろう。
「………」
これだけ観察を続けてもこの鉱山に不審な雰囲気はないし、怪しい人物もいない。目を離す事はこの度の命令違反にはなるが、少しくらいは問題ないだろうか。
「まあいっか。早食いには自信あるし」
シャルナークの過去の経験とカロリー不足の脳が実にその場主義にそう告げる。次の瞬間には軽々と脚を動かしていた。
例の店舗は想像以上にこじんまりとしており、飲食店どころかどう見ても小汚い弁当屋だった。ただ、寂れた雰囲気のあるこの地にはそれがよく似合っていた。中から漂う香しい油の匂いとパチパチ言う揚げ物独特の調理音が唾液の分泌を盛んにする。
「ありがとうございましたー!」
店員のやたら元気な高い声も妙にしっくりくる。シャルナークは四、五人の山男達が並ぶ列の後ろに着いてみた。