第20章 愛玩人形/イルミ双子妹夢主/16歳時点/日常
「あーーーー誘拐だ誘拐!!」
騒ぐキルアはイルミの腕にまとわり付き強行を阻止しようとするが イルミはそれを物ともせずアルカを抱き上げようとする。抵抗を諦めてしまったのか、アルカはついに悲しい表情を作ってしまう。
リネルは小さな溜息を落とす。もっと穏便に運べばいいものを イルミのやり方は少々強引で融通に欠ける。
黒い瞳で人形に合図を送った。よちよち歩きのフランソワはイルミの腕によじよじしがみつき、真っ直ぐアルカと顔を見合わせる。
「“アルカ 大丈夫だよ安心して。これからとっても楽しい所へ連れて行ってもらえるの”」
「…………ほんと?」
「“うん。アルカは選ばれた特別なコだから”」
詳しいことは知らないが一部の人間がアルカを調べているのは事実。幼い身でありながら 意思とは無関係に人を殺める力を持つアルカは、遅かれ早かれどこかへ隔離される。徹底的に調べられ場合によっては始末される、そんな予感はあった。
それが1ヶ月後なのか1週間後なのか、もしかしたら今日この瞬間なのかはわからないが1つだけ理解出来たのは、これがゴトーの言う“優しい嘘”だと言う事だ。柔らかい人形の手で アルカの前髪を撫でてやる。
「“行ってらっしゃいアルカ。ずっと待ってるから。わたしを信じてね”」
「……フランソワ……っ」
きゅうと目を閉じフランソワを抱きしめるアルカを リネルは冷えた目で見下ろした。どう働くかはわからないがこの化物に念を仕込んでおくならば今、そんな邪な考えが起こる。
もしかしたらアルカに会う機会は今後なくなるかもわからない。とはいえ、下手に能力を仕掛け それがバレない保障はどこにもない。葛藤の最中、右手をそっとアルカの頭に落とす。黒髪を優しく撫でれば アルカがくるんと振り返ってくる。
「おねえちゃん」
「…なに?」
「フランソワに魔法をかけてくれてありがとう」
口を一文字に結び 寂しさを噛み殺すアルカは 何の疑いもなく心からリネルを信じているだろう。ここが唯一、アルカの可愛いところだ。アルカはイルミに手を引かれ 部屋を去る事になる。