第20章 愛玩人形/イルミ双子妹夢主/16歳時点/日常
人形を操る傍ら 近付く気配にリネルの意識が吸われた。昔から不思議であるのだが 細胞1つを共有している頃からずっと一緒にいたせいか、イルミの気配だけは探ろうとせずとも手に取るようにわかるのだ。双子神話なんてクソ喰らえだが これだけは変えようのない事実で致し方の無いことだった。
あえて、フランソワを部屋の入り口へ走らせた。キルアとアルカ 少し遅れてカルトが ぱたぱたとそれを追いかけてくる。しばらくも待たぬうちに部屋の紙戸が開けられた。それらしい台詞でもって 新たな家族を歓迎してみる。
「“おかえりなさい。パパ”」
くにゃりと上半身を捻るフランソワを イルミは真っ直ぐ見下ろした。ぬいぐるみに対しこんな芸当が出来るのはこの部屋内ではリネルだけ、素早く大元へ視線を飛ばす。
「何してるの?」
「“今日の夕食はパパの大好物、ハニーアップルパイ バニラアイス添えよ。もちろんウエハース付き”」
「おやつだし!!」
「あははっ おやつだしー!」
イルミの問いを無視し おちゃらけたままごとを続ければ キルアとアルカは大爆笑である。横からミルキが白けた声で くだらないままごと、と説明をつけてくれる。黙ってそれを聞いた後 イルミは一直線にアルカへ近付いた。
「アルカ ちょっとおいで」
「……………え」
顔を上げるアルカの瞳が丸くなる。せっかく楽しく遊んでいた最中、真面目くさった顔で水を差されれば その反応こそ極めて自然だ。アルカの前に割って入るのはキルアで 彼もまた納得がいかない様子、丸い頬がぷくんと大きくなる。
「イル兄なんで?アルカだけ?」
「そう。大事な話があるから」
「後にしてよ せっかく今いいところなんだから」
「キルはここでリネルと遊んでて」
イルミの要求をしぶるアルカは口を尖らせ「まだフランソワと遊びたい」と子供らしい我儘を述べている。イルミがそれを聞き入れるとも思えないが リネルは黙ったまましばらく様子を伺った。
「アルカ」
「…………」
武の悪さをイルミはわかっていないのだろうか。子供なんて こうと言いだしたら言うことを聞き入れる隙がないのは重々承知しているはずだ。交渉が駄目なら次なる手はおそらく強硬手段だろう。イルミは期待を裏切る事もなく、アルカの前に屈み込み 小さな身体へ両手を伸ばしてゆく。