第20章 愛玩人形/イルミ双子妹夢主/16歳時点/日常
ゴトーは何も言わぬまま 再び手を動かし始める。技の粗さを指摘されたようでさすがに面白くはなかった。力の加減や伝達経路、全てが試験段階であったとはいえ やり口はお粗末極まりない。フランソワを破壊させるため 内部に植え付けた悪意あるオーラは小さな全身に飛び散り 今も尚残留しているだろう。このパターンを完成させるならばそういう面でも気を使う必要がある。痕跡は残せないし やむおえず残すにしても見つからない方法をとることは必須。リネルは緩く拳を握る、それを細い顎に添えほんのり首を捻った。
頭に浮かぶ1つの過程を考察した。フランソワのように単純構造に作られた、或いは成り果てた“モノ”の自己破壊が可能ならば 別の操作系能力者が先に手を付けた獲物に横槍を入れることが出来る道理だ。完全な支配下に置くことは不可能にしても 壊すことが出来れば 切り札にも人質にも使える。これは大きなリーチと言える。
「…………………………」
例えば、イルミが操るへどろみたいなオーラの合間を縫って 極めて少量に目立たなく自らの念を緻密に張り巡らせる。あるタイミングでもってそれを倍増させ 一気に物理破壊を起こす。脳内に描かれるイメージを形にするにはどうすればいいのだろうか、いずれにせよいいところまでは来ていると思う。
「リネルお嬢様はお優しいですね」
「…え?どこが?」
急に現実に呼び戻され 思わず大きなまばたきを挟んだ。優しさなんて生活の上で必要ないし教えられた覚えもない。ゴトーの言いたいことは少しもわからなかった。
「優しい嘘をおつきになられる」
「嘘?」
「リネル様の魔法でフランソワを直してやる、と。真実を話すよりもずっと アルカ様はお喜びになる」
ゴトーの表情は随分柔らかく見えた。差し出されたフランソワの胸にはいつの間にか花の形のアップリケが付いている。
「…フランソワ 可愛くなった」
「お気に召したなら幸いです」