第20章 愛玩人形/イルミ双子妹夢主/16歳時点/日常
キルアとアルカの反応こそごもっとも、フランソワを胸に抱き今にも泣き出しそうなアルカを宥めながら キルアはこちらを睨んでくる。リネルは四つん這いでアルカに近付き、黒い髪をそっと撫でてやる。
「ごめんねアルカ。おねえちゃんフランソワのかわりにもっと可愛いぬいぐるみをあげるから」
「やだぁっ……フランソワがいいんだもん…!」
「そうだよリネル姉 弁償しろよ!」
弁償で済むならむしろ話は早いのだが。偉そうに言うキルアの言葉の使い方は0点だ。横から手を伸ばし 溢れる綿を引き抜こうとしているカルトを膝の上に捕まえ、リネルはその場を丸め込む。
「じゃあアルカ おねえちゃんにフランソワを1日貸して?また元気になれる魔法をかけてあげるから」
「……っほんと?」
「うん。約束」
涙の溜まるアルカの瞳を淀む黒目で見つめ返した。そして今現在、ゾルディック家四子の周りで起きている奇妙な事象を脳裏に思い浮かべた。
アルカに直接「人形を直して」とおねだりされた訳ではない、直そうかとはリネルからの提案であるしこのケースはサンプル外だろう。
「どうせ 代わりの人形を執事に用意させんだろ」
電子音がやかましいゲーム機を高速指さばきで操作しながら ミルキは正解を言う、そこへじとりと視線を移した。リネルの高圧的な雰囲気を汲み ミルキは一瞬だけ焦る顔をする。そのままゲーム機の電源を落とし、1人早々ジャポンの間を去ってしまった。
◆
夜。部屋へ呼びつけたゴトーの手元を見つめながらリネルは冷めた声を出す。
「わざわざ直さなくても同じの手配してくれればいいのに」
「アルカ様はフランソワを、と申されたのでしょう?」
「すり替えてもどうせわからないよ」
「長く一緒にいる物には愛着が湧くものです。ご心配なさらずともきちんと仕立て直します」
何かにつけ器用な使用人であるが針仕事までこなすとはこの度初めて知った事実だった。はみ出る綿を中に押し込みながら細かく修繕を施すゴトーは 俄かに瞳を細め一旦作業の手を止める。
「…リネルお嬢様の力で壊されたのですか?」
「うん。そうだけど」