第4章 パーミッション/イルミ/微甘/微裏
“この客船に参加を予定しているある組織の抹殺依頼”
リネルが今夜ここにいるのはこの仕事に加担することを進言されたからである。
ターゲットは複数名に渡るので今日ここに来ているのはイルミとリネルだけではなく、ゼノ、シルバ、キキョウもそれ相応の装いの中この船の上にいる。
“マッドサイエンティスト” “ペドフェリアン” “アルビノキラー”、いかにものコードネームを持つ組織メンバー達をゾルディックの面々がそれぞれの角度から葬ると言う訳だ。
「お疲れ」
近付いてくるのは 暗いデッキの上でもわかりやすい縦長の立ち姿である。きちんと正装したイルミを見るのは今夜が初めてでもないのにいやに凛々しく見えてしまう。
これはやはり情景が生む魔法なんだろう、リネルは何食わぬ声色でイルミに話し掛けた。
「そっちも無事に終わったみたいだね」
「うん。つつがなく」
潮の香りに満たされ、夜風は髪を撫でてくる。
イルミのトレードマークである長髪も今は綺麗に束ねられているおかげで 彼の細やかな輪郭を覆い隠す事もない。リネルは顔にかかる地毛を押さえ、イルミに言う。
「どうする?会場戻って誰かの助太刀でもする?」
「いらないよ。リネルを最後に他の完了連絡はもらってるし。後は自由行動でいいって」
答えがわかっていて投げた質問だった。彼等に限ってまずミスなんてあり得ない。つまりゾルディックの今夜の仕事は全て完了という事になる。
それを踏まえて欲しい答えはその先だ、リネルは目の前のイルミを見る。ロマンチックな情景を阻む たった3メートル程度のこの距離をイルミはどう分析しているのか。淡い期待を抱いてしまう。
「オレは部屋に戻る。リネルは?」
「……どうしよう」
「また会場へ戻るなら一応見張ってて。何かあったら連絡入れてね」
イルミはすぐに来たばかりの甲板を1人で戻り出してしまう。
紳士を気取ったイルミの後姿を諦めを込めて見つめた。素っ気ないどころかこれではデリカシーすらない、こういう所は本当に相変わらずだと溜息を覚えてしまう。
「………やっぱ私も部屋戻ろうかな」
小さく一言残しイルミの後を追った。これはほんの数十分前の事、そういえば右の目はまだチリチリと痛かった。