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〈短編〉H×H

第19章 厭世主義/イルミヒソカ医者パロ/夢主看護師/無糖


ユイの手術が一週間後に迫ったその日はひどく蒸し暑い日だった。学会への出席を終えたイルミが病院に戻って来られたのは昼を大きく過ぎた頃だ。
巨大な門構えの入り口の近くには患者や見舞い客が悠々散歩出来るほどの立派な園庭がある。タクシーから降り院内へ戻る途中、ふと目に止まったのは他の人間とは明らかに異なる雰囲気を醸す 佇むユイの姿だった。

幼い子は散々に見慣れているがユイには全くと言っていい程子供らしさがない。それどころか人間として 痛々しいまでに厭世的なのである。生きる意欲がなく 大人に諦めを覚え、幼くして病を患う運命を嘆く事すらしない。それも個性でいいとは思うが今のユイはこの病院の大切な要人である、手術を前に何かありましたでは取り返しがつかない。独りぼっちでじめつく外の空気に触れさせておく訳にもいかず イルミは大きく首を回す。世話を言いつけられそうな人間は運悪くも居合わせていそうにない。腕時計に一度視線を落とした後、仕方なくイルミ自らユイの元へ近づいていった。

「1人なの?」

「うん」

こちらを見もせずにユイは小声でそう答えた。小さなユイを見下ろせば長い髪が耳を伝いさらさら視界に落ちてくる。イルミは髪を掻き上げながら更にユイへ視線を落とす。

「ダメだろ 1人でうろうろしたら。いつ発作が起きるかわからないんだから」

「ごめんなさい」

その謝罪には感情がない 自分自身に興味がないのであろう。小さな身に起こった不幸がどう作用しどんな危険を及ぼすか、説明し諭すだけ無駄だと知る。
幸いにも大切なことは手術までのユイの24時間管理の方、必要外のことをやる義務はないしする気もなかった。それにしても小言ばかりがうるさい担当看護師のリネルは一体何をしているのか。重要性をまるで理解していないユイの放置行為は処罰に値するとも思う。イルミは再び顔を上げ ぐるりと辺りを見回した。

「ねえ せんせい」

呼ばれてまたも視線を落とす。ユイはやはり下を向いたまま 顔を上げようとはしなかった。




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