第19章 厭世主義/イルミヒソカ医者パロ/夢主看護師/無糖
射るような視線を浴びせられた。この仕事をしていると医師に話を遮られるのは日常茶飯事で そういう時は口を閉じるしかない。ヒソカの広い掌は片手でもユイの胸元を覆うには十分な程 平らな胸をゆっくり撫でた後、心臓の音を聞いていた。
「んー………綺麗な音だ」
ヒソカの唇が左右に大きく歪む。端麗な指先はユイの手首に伸び 弱々しい脈に感じ入っているようだ。
日頃イルミの素早く淡白な診察に慣れているせいもあるかもしれないが 天才外科医が聞いて呆れると思う。
しっとりと、白い首筋を通る血管を撫で上げる様は これからユイを相手に暴力的な性行為をする前戯にすら見える。必要以上にユイに触れるヒソカには嫌悪感しかなかった。
どくどく、どくんどくん。うるさく聞こえてくるのはリネル自身の緊張の音だ。
「ん いいよ」
ヒソカは聴診器を外す。愛想の良い笑いを見せ ユイの頭を撫でていた。そんな単純な動作すら歪んだ欲求の捌け口に見えて仕方がなかった。
「ねえ 先生、少しよろしくて?娘の事でご相談したいことがあって…」
横から猫なで声を出してくるのはユイの母親だ。ハイヒールを鳴らしリネルの目の前を通り過ぎ 真っ直ぐヒソカの元へ行く。くらくらする香水の匂いは気味が悪い程だった。
リネルは病室を出て行く2人の背中を睨むように見ていた。火の無いところに煙は立たないというが全くもってその通りだと思う。
ユイの家庭環境はナースステーションでは今一番の話題となっている。一度も顔を出した事のないユイの父親には年下の愛人がいるだとか、厚化粧の母親は院内の実力派な医師達に片っ端から声を掛けているだとか。腕も顔も抜群であるヒソカの女性人気は言うまでもなく、美貌を持て余している母親がヒソカを放っておくはずがない。
一体ユイはどんな思いで母親を見ているのだろうか。視線をベッドに落としてみるも ユイはただ虚ろに瞳を濁らせているだけだった。