第19章 厭世主義/イルミヒソカ医者パロ/夢主看護師/無糖
リネルは白衣に手を伸ばした。何も出来ない己の無力さが歯痒くて指先に力が入ってしまう。何度考えても悩んでも、今リネルに出来る事は放られた白衣をハンガーにかけることだけだった。
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過去に一度だけ この三つ星ホテルのような部屋を利用する客を見た事がある。その時はどこかの民間企業を経営する社長だと聞かされたが この度の患者は齢5歳の女の子、彼女が利用するにはあまりにも不自然だった。大きな海外製のベッドの上には細く小さな少女が気力なく座っている。母親によく似た面差しの彼女はとても可愛らしい顔立ちをしていた。
子供特有の柔らかな髪は真っ直ぐに伸び、大きな瞳を縁取る睫毛は黒く長く 可憐な唇は極薄い色を帯びている。ユイは綺麗は蝋人形みたいだ。
「ええ…うん!わかったわ。うんうん…あっ ねえその事なんだけど…」
高い声で遠慮なしに電話を続けるのはユイの母親だ。先日の検査結果やこれからの治療の件など話す事は山ほどあるのに母親の電話は終わりそうもない。
「ユイちゃんどうかな 病院での生活も少しは慣れたかな?」
「うん」
点滴の種類を再度確認した後 リネルはユイに笑顔で話しかけてみた。ユイは始終無表情で返ってくるのは簡単な相槌だけだった。
「やあ」
引戸を滑る音と共にヒソカが顔を出す。昨晩の今日であるし リネルは視線を逸らしたままヒソカに頭を下げる。ヒソカは大股でユイのベッドに近付き 相変わらずの冷笑を見せた。
「どうかな 調子は」
「あっ 先生ご無沙汰しております!」
いつの間にか電話を終えている母親が 明るい声を飛ばしてくる。頭のてっぺんから爪先まで 綺麗に整えられた女優みたいな母親は 今日も変わらず魅力的だった。
「この度は娘を執刀して下さるそうで、よろしくお願いします」
「ああ」
軽口で返事を返すヒソカの目先は真っ直ぐにユイだ。一体ヒソカは頭の中で何を想像しているのか、長めの前髪からじっとり覗く性癖を秘めた熱視線に悍ましさを感じてしまう。ヒソカは聴診器をユイに差し出してくる。
「少し、診察しようか」
「後程イルミ先生がいらっしゃいます。診察はその時にいたしま」
「彼女を切るのはボクだ」