第19章 厭世主義/イルミヒソカ医者パロ/夢主看護師/無糖
「お疲れ様でした」
「ヒソカの所に行ったんだって?」
「…はい…」
「勝手な事するなよ」
労いの挨拶に被せるように言われたのは昨晩の深夜来訪の事だった。如何せん、事実ではあるし リネルは小声で「すみません」と謝罪を述べた。とはいえ元はと言えば 担当医であるイルミが適切な判断を下さないのが発端なのである。ヒソカへの打診の前には既にイルミにも もう何十回もこの話は持ちかけてきた。聞く耳を持たないこの小児科医に何を言っても無駄なのはわかっているが どうしても小さな子供の命を諦めきれなかった。
「…やっぱりユイちゃんの身体はオペには耐えきれません。仮に成功したとしても深層までにメスを入れるとなればその他部位への負担も相当大きくて」
「またその話?」
うんざり、というのが無表情のイルミからも読み取れた。イルミは首にかけていた聴診器を机に置き 着ていた白衣を無造作に椅子の背に置いた。そのままあっさり診察室を出ていこうとする。遅い昼食を終えた後は病棟患者を見回り診察をする手筈、ゆっくり話をしている時間なんてないのはリネルも同じだった。
「待って下さい!このままじゃ本当に…ユイちゃんは切られてお終いになってしまいます!」
「それが上の決定だからね」
「だからその決定は間違いです!」
「ここも縦社会だからさ 正しいかはどうでもいいんだよ」
“名のある財閥令嬢が患う難病を凄腕医師が執刀する”
実に気を引く話題性に飛び付いたこの度の治療方針は 医療従事者の目にはどう見ても間違っていた。奇跡でも起きない限りオペでは患者を救えないだろう。イルミだってそれは重々承知の筈だ。リネルは声を震わせて イルミに人情を問う質問をする。
「…先生は本当にこれでいいんですか」
「まあ経営面を考えるともう少し臨床で引っ張ってから決断しても遅くないとは思うけど、命令なら仕方ないよね」
「そうじゃなくて…!先生の小児科医としての見解を聞いているんです!」
「見解ねえ」
これでは会話になっていない イルミは一度だって目すら合わせてこなかった。イルミは無感情のまま 勝手に話を切り診察室を出て行ってしまう。
「…ユイちゃん…」