第19章 厭世主義/イルミヒソカ医者パロ/夢主看護師/無糖
話の途中だと言うのにヒソカは回転椅子を90度回し席を立つ。ゆたりと余裕を醸すヒソカの雰囲気は 切羽詰まるリネルの様子を馬鹿にしているようにしか見えなかった。ヒソカは部屋に備えられている珈琲メーカーに足を運ぶ。一緒にどうかと掛けられる誘いをきっぱり断り リネルはますます頭を下げた。
「先生 お願いします…!」
「こんな機会譲れると思うかい?」
「先生は一体何のために…っ」
「勿論あのコを救う為さ」
明らかな嘘八百を並べるヒソカを強く睨んだ。おもむろに、紙カップがトンと机に置かれる。ほぼ同時に持ち込んだ紙束はバサバサ足元に散らばってしまった。
「なっ…、っ」
手首を掴まれた。目の前に迫るのは長身なヒソカの胸元あたり 白衣から覗くのはどぎつい色のネクタイだ。抵抗を込めて視線を上げればそれを面白がるように ヒソカはしたり顔でこちらを覗き込んでくる。
「…やめて下さい」
「ボクの台詞だ」
掴まれた手首を引かれると 頬が白衣に触れてしまう。頭上から低い狂気の囁きがする。
「キミから先に…切ってみようか」
ヒソカの右手が真っ直ぐ白衣のポケットに落ちた。まさかとは思うがこの異常者ならやりかねないかと心臓が騒めいた。手術道具であるメスを勝手に持ち出したのか むしろ私物として所持していてもおかしくないのではと 恐怖の想像が膨らんでしまう。
「深夜に看護師が一人消えたところで 誰も困らないさ」
「イヤっ…」
力の限りヒソカを突き飛ばした。ヒソカはよろめきもせずに身体のバランスを保ったまま するりと右手を上げる。そこに挟まれていたのは止血用の小型鉗子だった。
「運がいいね これじゃあ切れない」
ヒソカの声色は実に楽しげだ。そんなものをポケットに忍ばせている時点で ぞくりと冷や汗を流すには十分だった。
「…………また伺います」
「次こそはホンモノの夜這いにしてくれよ」
ヒソカは何食わぬ顔で先程の珈琲を啜っている。リネルは素早くその部屋を去った。