第30章 旅立ち~相澤消太~
「…行ってくるね」
「 あぁ」
そう返す消太に華はゴソゴソと自分のポケットを漁った
「はい、消太くん家の鍵を返すの忘れてたから」
手のひらに乗せて差し出す鍵をもう一度握らせるように華の手を消太は握った
「いい、お前が持っておけ …それに鍵がないと帰って来たときに入れないだろう」
そうボソッと呟いた消太の顔はほんのり赤かった
「これでちゃんと帰ってこい 待ってるから」
言いながら照れ隠しのようにワシャワシャと頭を撫でる消太に華は嬉しそうに笑った
「それじゃあ 行ってきます」
手を振って搭乗口に向かおうとした華の手を消太はぐいっと引っ張った
「忘れ物だ」
消太はそう言うと華の額に軽く唇を落とした
「…っ!」
「…あっ!!」
突然の出来事に声が出なかった華の代わりに出久の声が聞こえた
「し…消太くんっ!」
「…秋彦さんには内緒だぞ」
「言えるわけないでしょっ!」
甘い言葉でも言うのかと思ったらまさかの発言にズルッと肩透かしを食らったような気にもなるが それもまたらしいといえばらしい
額をさすりながらも顔を赤くして今度こそ搭乗口に消えていく後ろ姿を見送ると消太はくるりと踵を返して はたっと気が付いた
「ぼ…僕は認めないぞぉぉぉぉぉ!」
そう叫びながらダッと走り去る出久の姿に消太は声を掛ける間もなかった
すっかり忘れていた生徒の存在にそうだったと片手で顔を覆った
「緑谷ちゃん、全然気が付いてなかったのね」
ケロっと同じ様に出久の後ろ姿を見つめながら梅雨はボソッと溢した
「お前、いつから気付いていた」
出久とはまた対象的にサラッと流そうとしてる梅雨に違和感が残ったのか そう問いかける消太に梅雨はにっこりと笑った
「違和感を持ったのは華ちゃんがクラスにマフィンを持ってきたときからかしら」
そんな前から というかどこに違和感らしき出来事があったのかさっぱり消太にはわからなかった
「あの時、先生が来て注意したでしょう?その時に躊躇なく華ちゃんの名字を呼んだわ」
確かに、あの時は呼んだような気がする だか何故それだけでわかったというのか