第30章 旅立ち~相澤消太~
「ふふっ、昔もこういう事が1度だけあったね」
楽しそうな華の声に消太は思い出すかのように目線を上に向けた
「あー…そういや、そうだったな あん時は大変だったよな」
それはまだ華が幼い頃の出来事であった
* * * * * * *
「こらっ!いい加減にしないか華っ」
「嫌っ!消太くんと一緒に寝るのっ!」
如月家のリビングで聞こえる言い合いに間に挟まれている消太は顔を覆った
この攻防が15分も続くと誰だってグッタリする
「消太は明日お仕事なんだよ、代わりにパパが寝てあげるから ね?」
「パパは嫌っ!消太くんがいいのっ」
そう言いながら華はぎゅうっと消太の足にしがみついて離れなかった
そろそろ夜も更けてきたので帰ろうとしていた消太に華は泊まっていけと言うように離れようとはしなかった
困ったなぁと苦笑を漏らす秋彦は消太をチラリと見てため息をついた
「お前、その顔 泊まっていこうかと考えてるだろ」
「何言ってるんですか 明日仕事だって言ってるじゃないですか」
そう言いながらもしがみつく華の頭を撫でてやる消太の手つきは優しい
「はぁ…ほんっとにお前は華には甘いよな」
「秋彦さんこそ」
「華、良かったなぁ 消太がお前と寝てくれるんだと」
そう秋彦が言った瞬間に華はピタリと騒ぐのをやめて消太を見上げた
「その代わり早く寝るんだぞ」
ぽんっと華の頭に手を乗せて小さく言葉を溢せば華は嬉しそうに消太の手をぐいぐいと引っ張った
「じゃあ寝るまで絵本読んで!早く早くっ」
「一冊だけだぞ?それ以上は疲れるから読まんぞ」
そう言いながら部屋に連れていかれた消太だったが
結局延々と華の部屋のベットで華が眠りに着くまで絵本を読んでいた