第3章 解凍されど再凍結
「……表田くん?」
涙に濡れた目で隣を見ると、見覚えのある顔がこちらを覗き込んでいた。知っている顔を見て、苦しい時に、好きな人がそこにいて。たまらずに涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。ぎょっとした顔をした表田くんはおろおろとして、それから意を決したようにそっと私の手を握ってくれた。
何も言ってはくれなかったけれど、それだけで酷く安心して、その手を縋るように握り返す。精一杯力を込めて握った私の手を同じくらいの強さで握り返してくれる手はやっぱり温かくて。
「……ごめんね、ありがとう」
私が落ち着いた頃には夜がすっかり深まって、肌がひきつれるような寒さで夜の公園は満ちていた。
運動選手なのに、風邪もひいちゃいけないし、体冷やしちゃったろうな、なんでここにいたんだろう、ジョギングの帰りとかだったのかな。
色々と考えることはあるのに上手く口からは出てこなくて、またごめんねと言う。
「謝ることじゃないからいい」
俺も、あんまり一人でいたい気分じゃなかったから助かったし、と表田くんが零す。嘘のない、純粋な瞳には哀しみも何も浮かんではいないのに、指先が少し震えている気がして、思わず指を絡めて強く握る。
驚いたような顔をしてから、それでも瞳を伏せてぬくいね、と言ったその声が落ち込んでいる気がして。
空いているもう片腕を伸ばして表田くんの首の後ろを掴んで引き寄せる。マフラーも巻いてない首元は冷え切っていて、温めるように首を擦りながらぎゅう、と自分の肩に表田くんの額を押し当てるように抱き寄せる。
「人って、ハグするとストレスが半分に減るんだって」
言い訳をするようにそう言うと、応えるようにつないだ手の力が強くなる。
少ししてから顔を上げた表田くんの顔が、近い。吐息がお互いの唇にあたって、吐息だけじゃない、柔らかくて少しかさついたそれが押し当てられて。
「……キスは、どれくらいストレス減らすの?」
「……知らない」
まだ唇がほとんど触れてるような近さで、表田くんの声が肌を通して伝わる。顔は見えない。
「セックスは?」
「それも知らない……ねえ、表田くん」
試してみる?と囁いた私の声に引き寄せられるように表田くんはキスをして、私の腕を引いた。家、どこ?掠れた声が囁いて、お互いの指を絡めて手を繋ぎ、公園を出る。
言葉はもういらなかった。