第3章 解凍されど再凍結
今日も朝から過酷だった。
出勤してすぐにお腹が痛いから教室に行きたくないという子が来て泣き始めたので宥めながら話を聞いた。やっと落ち着いて教室に行かした直後に休み時間に鬼ごっこしていたら園庭の木に体当たりして枝でおでこを切った子がいると言われ病院に連れていく。保護者にも連絡している間にも彫刻刀で指を切っただの調理実習で火傷しただのと来室が多かった。子供が帰ったあとは職員会議で、ついに保健室の先生が子供を甘やかしすぎだと槍玉に上がってしまった。こういう生徒が来たからこう対応するのがいいと思ったんです、と理由を述べたけれど前の先生はすぐに教室に戻してくれてましたけど、とすげなく返されて。
私がここにいるのは子供たちが長く痛く苦しい思いをしなくても良いように安心させて処置して連携を結ぶためにいるはずで。
それなのに、それなのに、それなのに!
子供も産んでない、育ててない、新卒の未熟な先生だから間違いもあるよね、子供の嘘も慣れないうちは見抜けないし仕方ない。どんな子であれ怪我や病気の疑いのない保健室に来たいだけの甘えてる子は早く教室に戻すようにしてくださいね。
それが、教頭の、学校の、判断だった。もう親からのネグレクトの疑いのある子から話を聞いたり、担任との折り合いが悪くて教室から逃げたい子の逃げ場になってあげたり、受験ノイローゼも重なってよく人と衝突してはどうしたらいいんだろうと相談に来る子と話すことを許されなくなった。保健室の中にいないで、職員室で基本的に控えて、職員室に来たけが人の中で処置の必要な怪我だと判断した時以外は保健室に入るのは良くないと、そういうことになった。
帰り道、いろんな思いが渦巻いて、熱い涙がぼとりとアスファルトに黒い染みを作る。もう、むりだ。だましだましやってきたけれど、まだ1年も経ってないけれど、今まででこの今日1日がなんだかとても辛くてたまらなかった。
どこも怪我してはいないのに、血なんて流していないのに、痛くて辛くて苦しくてたまらなくて。大人ですら押し流せないこの苦しみを子供達に解消させることなく抱えさせろと命じられて。
私がいる意味ってなんなんだろう。
そう思って公園のベンチに項垂れるように座って、自分の無価値を噛み締めていた。
「……遅実さん?」
隣に、誰かが座った。