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ひとつの円の裏表(裏道夢)

第7章 ひとつの円の裏表


ご馳走様でした、と言って酔いだけではない意味で潰れた兎原くんを支えて頭を下げた熊谷くんはやはりまだ不服そうな顔はそのままに帰って行った。しつこい奴だな、とため息をつく裏道くんに人のこと言えないよ、私達はと返すとそれもそうかと返ってくる。
手を繋いで夜道を歩く。あの時みたいに繋いだ手はどちらからもしっかり握っていて離れそうにない。向かう先は私達二人の部屋だ。

「ねえ、裏道くん」
「なに」
「私はあの日、まるで裏道くんとひとつの円になったように思ったよ。ぴったりと重ね合って、はみ出しも欠けもしない」
「……うん」
「誰とどう過ごしてもそんな感覚は裏道くん以外にはなかったよ」

私がそう言って体を寄せる。
裏道くんは微妙な顔でこちらを見ている。木角くんの事でも思い出してるのだろうか。

「ひとつの円には、コインみたいに裏も表もあるでしょ。裏と表、違う色彩を持ってもそれは離れたりはしない。同じ円だもの。私はそうなりたい」
「……回りくどい」
「ロマンスを理解しない男は嫌われるよ?」
「映画とかドラマの見過ぎ」
「人喰いサーモンVS原付ラビットとかいうクソ映画しか観ない人は黙って」
「早苗だってサーケネードとかいう人喰いサケが竜巻に乗って地上の人間を蹂躙するクソ映画観てただろ」
「たまには人生の中の90分をドブに捨てたくなる時だってあるでしょ、10年に比べれは微々たる時間よ」
「ごめん」
「謝って欲しいわけじゃない」
「今だって美人だと思う」
「そうじゃないでしょ」
「……俺も、ずっと一緒にいたい」

花丸満点、と言って私から背伸びして、それでも足りない高さは屈んでくれた。唇が重なって、離れる。
好きだよ、愛してる。
私がそう言うと、知ってる、と言いながらニヒルに笑う。好きだ、と返してくれたことはないけれど真実私を愛しているのを私は知っている。
その気もないのに自分のテリトリーに他人をいれる人じゃない。
そんなことを分かるようになったのは付き合い始めてからのことだけれど。
毎日新しいことを知る。
へしこが好き、筋トレが趣味、感情の起伏が抑え目、子供が割と好き、絵はあんまり上手じゃない、眠りが浅い、情緒不安定、私が好き。情緒は最近ちょっと安定の兆しを見せたかもしれない。
一つ一つ、新しい私たちに変わるその瞬間を分かち合える。

それが、なにより愛おしい。
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