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ひとつの円の裏表(裏道夢)

第2章 懐かない猫はかわいい


「……早苗先輩は、気になってる人にはそういうアピールの仕方するんですか?」
「ん?うん。例えば相手は運動が好きなアウトドア派、私はその人がどんな怪我をすることが多いか、どういう所が楽しいかとか聞くかな」

熊谷くんは少し迷ったような素振りをする。
さっきの共通の話題をみつけて歩み寄るみたいな話のことなんですけどね、と前置いて口を開く。

「裏道さんがね、最近早苗先輩からのメールの後、すごく迷ったような顔して2回返信送ってるんですよ。その内容ってどんな感じですか?」
「あ、1番最後にいつもくれるやつかな?アドバイスとか……あと前に花が綺麗に咲いてたからお裾分けって送った時はきれいだね、ってきた後にうちの大学にも咲いてたって写真おくってくれ……たよ……?」

話をしていると徐々に熊谷くんが微妙な表情になるので釣られて私の声も尻すぼみになっていく。
熊谷くんが、うんうん、と頷いてからこちらに顔を寄せる。
私も釣られて熊谷くんの方へ体を傾けた。

「あのね、その花の写真の時は寮でレポートやってたのに20分くらい席外した時の事だと思います。裏道さんから誰かにメール送ることって連絡網以外ではほとんど無いし、先輩のメール確認してる時、うっすら笑ってる時あるし…多分、裏道さんなりに先輩に歩み寄ってる……と、思います、多分」

きっと先輩が思うより、裏道さんは先輩に心を開いてますよ。
熊谷くんがそう言って微笑む。私の胸の中の灯りがぼっと燃え盛って、胸が今までで1番、特大の収縮を迎えた。
これ、胸キュンってやつでは。

「まあ今回の呑みには来なかったので対面はまだ難しいんだと思うんですけど」
「警戒心がすごい」

懐かない猫みたいで可愛いから全然OKって言った私を微妙に理解不能、みたいな顔をした熊谷くんが唐揚げを口に放り込む。多分猫の方がかわいいのに何言ってるんだ?って顔だと思う。
それからしばらくして、熊谷くんと兎原くんと別れて歩く。
夜道を歩いて、周囲を確認して、誰もいないのをいいことに道の途中で立ち止まる。

「やっ……たぁ………!!」

小さい声で、それでも渾身のガッツポーズを小さく作る。
表田くんの心の氷を少しでも溶かしたような気がして、嬉しくてたまらなかった。
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