第1章 温みの灯った日
「アレー?熊谷じゃん。何?一人で飲んでるなら俺も誘え…よ……?」
ぽろぽろとみっともなく涙を流しているのを隠しもせずにいると、陽気な声がこちらに向かって話しかけてきた。相手からは彼が死角になって見えていなかったのだろう。少し体をずらしてこちらを覗き込んだ金髪の男は泣いている私を見て、やべえ、と絵に書いたような表情をした。
「一人で来てたらテーブル席に座ってるわけないだろ、ここカウンター席あるのに」
呆れたような声で金髪の男の頭を鷲づかんだ熊谷くんはこちらを見てすみません、先輩、と謝る。
「こちらこそみっともないもの見せてごめんね。いくら熊谷くん相手でも気を抜きすぎだったね、ごめん」
「先輩が謝ることではないです。ほら、お前も謝れ」
「エッ、あっ、いだだだだ痛い痛い熊谷弓道部の筋肉で締めるのやめて本当にすみません!」
ミシミシと音が聞こえそうなほど握られた金髪の男の目に涙が浮かぶのを見て気にしてないからいいよ、と熊谷くんに笑う。わかりました、と言ってぱっと手を開いたせいで金髪の男がべしゃりと崩れ落ちた。
「お友達?」
「大学の寮が同室の奴です」
「ウワーッ素直に友達っていえよそこは!熊谷の友達の兎原って言います!」
ぱっと表情を明るくして迫り来る相手に少し引いてどうも、と会釈する。
「遅実早苗といいます。よろしくお願いします。熊谷くんは高校の時郵便局の年賀状の仕分けバイトが一緒だった縁で良くしてくれていて。熊谷くんいつもありがとうね」
「いえ、こちらこそ。先輩にはお世話になっていますし」
熊谷くんが生真面目にそう言って、もう帰れよ、と興味深げに熊谷くんの隣に座り込んだ兎原くんをしっしっ、と手で払う。
「兎原くん、一人で来てるなら是非ここにいていいよ?熊谷くんの大学のこと聞きたいし。いつもこっちが喋ってばかりであんまり熊谷くんのこと知らないの」
気を遣わせないように提案すると、マジっすか!と喜んだその直後に兎原くんはサッと顔色を青くして固まり、冷や汗を流し始めた。
「あ、ヤバい……忘れてた……」
ボソリと彼がそういうと同時に、テーブルの傍に人が立った。
兎原くんがそちらを見上げてひいっ、とひきつれた様な悲鳴をあげる。
「兎原、こんな所にいたのか」