第5章 見つけては見失う
その日はなんでだったか。そう、今年の春から新入学の1年生達が妙に夢中になっている教育テレビのアニメがあると聞いたことがきっかけだった。かじる虫が流行った時もあったように、おしりという部位はなんとも子供たちにとって面白い部位らしい。
そこがモチーフとなった探偵もののアニメがあると聞いたのを思い出して、暇を持て余した31歳の夏休み。ママンとトゥギャザーをやっている時間帯の教育テレビなんて久しぶりだな、と思ってテレビをつけて。驚いた。
「こんにちは〜☆うらみちお兄さんだよ☆」
完璧に張りつけた満面の笑みの奥の瞳が濁り切って疲れているし、あの頃に比べれば少し顔つきも変わっているけれど。あの日、あの時、あの一夜。
私のもとから去ったあの人がそこにいた。
10年、結局特定の誰とも恋人にはならずにいた私の目の前にまたポッと降って湧いた幸運だった。
「つって、今更どう言えばずっと会いたかったですとか抜かして連絡取れるってんのよアホか」
そう言いつつ私は毎日録画しているんだからアホだ。
ちょっとそれ大丈夫なんですか?と思うくらい大人の本音を剥き出しにしたり、声が酒焼けしていたり、子供たちに心を抉られて崩れ落ちたりする姿はあの不器用に微笑んでいた頃と違う。10年の月日はすごい。
というか、あのウサオくんとクマオくんって兎原くんと熊谷くんだし。会ってたのに教えてくれないってことは口止めされてたのかなにかだろうか。口止めするほど会うのを望まないのなら、私はまたあの強い孤独と虚無を知らねばならなくなるのか。
「で、寂しくなったから呼んだのかよ」
「本命と上手くいってないってこの前言ってたし、付き合い長いから楽だし」
「てか俺この番組の販売企画部で働いてんだけど、知らなかったっけ」
ぽかん、と思わず口を開けてしまった。
「……知らなかった」
じゃあどれに言ったんだっけな、と首を傾げる木角くんがまあいいやと言いながら私を押し倒す。
うらみちお兄さんのワンナイトの相手とセフレとか重すぎるからこれが最後な、と言った。
「ええ……じゃあ次から誰に頼もう……ずっと木角くんだけだったからな……」
「ヨリ戻せばいいだろうが」
「連絡先も知らないのに?」
そう言うとめんどくせえな、と言って木角くんは私を抱いた。
この事を知ったら裏道くんはどんな顔をするだろうか。
想像できなかった。