第8章 芸術家たちの島
パチリと目が開いた。
見覚えのない天井、一瞬考えて、海を目指して倒れたことを思い出した。
ガバッと身体を起こすと「あぁ、気がついたんだね。」と声が聞こえた。
自身はベッドに横になっていて、身体の至るところに包帯が巻かれ処置を受けていることがわかった。
歩いてくる音の方を見ると、50〜60代の男性が近づいて来ていた。
私はぐっと眉を寄せ、身構える。
「そんなに警戒しなくても、君に何かしようとは思っていないよ、ディストラクト・クレアちゃん。」
『どうして、私の名前!?』
私が驚いて言うと、男はにこりと笑った。
「麦わらの一味のことは新聞にもよく載っているしね。シャボンディ諸島にいた筈の君がどうしてここにいるのか、私にはわからないけれどね。」
男から敵意は感じられなかったが、私が麦わらの一味だと分かっていることに危機は感じた。
『海軍にでも突き出すつもり?』
私は懸賞金がかかっている、当たり前だが引き渡せば彼に大金が入ることだろう。
「まさか、村の子孫を売り飛ばしはしないさ!」
男は「安心しなさい」と言いながら、私に温かいお茶を渡して来た。私は一瞬ためらったが、一先ずそれを受け取ることにした。
「君は何一つわからないという顔をしているね?説明が必要かな?」
男に問いかけられ、私は小さくコクリと頷いた。
「ここは"アルテ島"通称、芸術家の島だ。世界的に有名な芸術家たちの多くはこの島出身だよ、勿論アーティルスもね。」
叔父さんの名前が出たことで、私は急激に心を開く。
それから、芸術家の島だと聞いて私が島に着いた時の人々の行動に納得がいった。芸術家の性分が出たのだ。
『叔父さんの育った島・・・。』
「アーティルスだけじゃないさ、君のお父さんとお母さんもそうだよ。」
私のお父さんとお母さん。
顔も覚えていないその存在に、なんだか不思議な感覚になる。
「これが君の両親、その隣にいるのがアーティルスだ。」
男は1枚の写真を見せてくれた。
それが、私の両親なのかと全く実感は湧かなかったが、自分に両親がいたんだと感じる事はできた。
その横に立つ叔父さんは、私の知っている姿より随分と若くて表情は活きいきとしていたが、面影は随分と残っていた。