第5章 恐怖の島で過去は巡る (スリラーバーク編)
「くそ、なぜだ・・・身体が!」
振り下ろされた短刀に私は目を瞑るが、それは首の横スレスレで止まった。
右手で振り下ろした短刀を、エリシエンさんは左手で掴んで止めていた。
エリシエンさんの肉体の意思が、私を救ってくれたのだ。
『エリシエンさん・・・ありがとう。』
私はウソップから貰った塩を取り出す。
『エリシエンさんの身体、返してもらいます。』
そうして、その口に塩を放り込んだ。
すると影が口から出て行く。
その影が出て行く直前、エリシエンさんは一つの絵を指差し、そしてニコリと微笑んだ。
バタリとエリシエンさんの肉体が力なく倒れこむ。
『良かった、良かった・・・。』
私はそう呟き、ふぅと息を一つ吐いた。
それから、エリシエンさんが指差した方へ近づく。
裏を向いていたそれを表にすると、そこには私の探し求めていた一つがあった。
『これは・・・"幽霊船"!?』
アーティルスの遺した名画の一つ「幽霊船」がそこにはあった。
ただ、贋作かもしれないといくつかのサインを探す。
隠された場所の文字、光の加減で見えるもの、私とリノスと叔父さんしか知らない記号・・・全てがそこにあった。
本物の「幽霊船」だ。
しかし、何故こんなところに・・・いや、世界中に散らばっているのだ、ここにあっても可笑しくはない。
エリシエンさんが、最後に私に教えてくれた。
死して尚、傷だらけの姿で贋作を書かされ続けたエリシエンさん。
彼を安らかに眠らせたい。
土葬などして、また利用されても困る。
そしてこの贋作たちも全て葬るのだ。
私は「幽霊船」を背負い、エリシエンや絵に火をかけた。
そして、塔の外を出る。
ゴウゴウと燃える塔の火を私はジッと見つめていた。