第5章 恐怖の島で過去は巡る (スリラーバーク編)
エリシエンさんの攻撃は怒涛で、避けるので精一杯になる。
『エリシエンさん、私は貴方の絵が好きでした。いつも楽しい絵を描いて私とリノスを楽しませてくれた。素晴らしい名画も多い。こんなところで贋作を描いていい人じゃない!』
彼をもう酷使するのはやめて欲しい。
亡くなってしまったのならば、安らかに眠って欲しい。
「無駄口を叩いてる暇なのか!?」
エリシエンさんが、どかっと私を蹴飛ばす。
私はそれをモロに食らってしまい吹き飛んだ。
『今、アーティルス叔父さんに顔向け出来ますか!?』
エリシエンさんがこちらへの歩みを止める。
「アー、ティルス。」
そう呟いて顔をしかめた。
影には叔父さんとの思い出なんて何もない。
だから、今歩みを止めたそれはエリシエンさんの肉体によるもの。
『叔父さんとエリシエンさんとリノスと私、4人で過ごした時間を私はずっと覚えてる!貴方は何度もわざわざ船で私たちに会いに来ては旅に出て、旅先では絵の写真を送ってくれた。貴方が嵐で亡くなってしまうまでずっと!!貴方の送ってくれていた絵は、画集になって今の世にも遺っています。思い出も形も全てある!だから、贋作を描いてその素晴らしい手を汚さないで、お願い。』
いつのまにか私は涙を流していた。
私の言葉をエリシエンさんは動かずに聴いている。
いや、動かないのか。
私にはエリシエンさんだっていた、私の味方であった人。
だけれどもういなくなってしまった、どんどんいなくなってしまうんだ。
残された人は、遺された思い出に縋るしかない。
それを目の前で贋作なんて描かれて、どうして汚されなければならないのか。影という名の全く別の魂を入れられて、その肉体は嬉しくなんかないはずだ。
思いとは裏腹に動かされる身体が、可哀想でしかない。
そして、本当の自分と切り離された影も。
「戯言などもう聞きたくない!」
エリシエンさんがバッと動き出す。
突然のことに私は対応出来ず、気づいたら目の前にいた。
ザンッ!と短刀が振り下ろされた。