第8章 《エルヴィン》堕ちる2 ※
「!!」
なんであいつのことを思い出すの…せっかく一人で入れたっていうのに。
突然蘇ったエルヴィンとのバスタイムの記憶をかき消すようにエマは大きくかぶりを振る。
やっぱりおかしい…
エマはエルヴィンの異変に気が付いていた。
というのも、風呂もそうなのだがそれ以前に、今日はまだ一度も迫られていないのだ。
朝起きた時もキスだけだったし、日中はエマを自由にさせてエルヴィンはほぼダイニングテーブルに座りパソコンに向かって何かの作業をしていた。
たまに呼ばれて、犯されるかとビクビクしながら近付いたが愛おしそうに頭を撫でたり抱きしめてキスされるだけで、その先は何もしてこなかった。
そして風呂も一人で入ってきたらいいと言われ今に至る。
日曜の夜まで今まで通りに過ごしてほしいと言われたのに、エルヴィンの方が全く今まで通りじゃない。
何かある…絶対に何か…
もしかしたら日中しなかった分今夜は朝まで抱き倒されるんじゃないかとか、嫌な妄想ばかりが先走ってズシンと頭が重たくなった。
どうか何事もなく無事に日曜日が来ますようにと願いながら、エマは貴重な一人の時間を過ごしたのだった。
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次の日、ついに運命の日曜日。
「おはようエマ、朝だよ。」
「ん……」
「寝ぼけてるのか?可愛いな。」
「っ!!」
うっすら目を開けると目と鼻の先に微笑みがあって、エマは飛び起きて後ずさる。
そのままキスをされるかと思ったのだ。
でもエルヴィンは何もしてこず、折った腰を伸ばしてエマに手招きをした。
「朝ごはん、出来てるよ。一緒に食べよう。」
「………」
身体に触れられることはおろかキスさえされない朝が来るなんて。
それに昨夜も結局求められず、初めて丸一日セックスなしだった。
拍子抜け、というのだろうかこれは。
エマは昨日から不自然なほど突然触れてこなくなったエルヴィンに疑念を抱きつつも、彼の後をついてリビングに入る。
テーブルには美味しそうな朝食が並んでいて、もうエマはエルヴィンと同じメニューを残すことなく食べることができるようになっていた。