第14章 《エルヴィン》 拠り所
「花には花言葉というものがあると聞いたことがあるが」
「ええ、あります。どのお花にも。このお花の花言葉は色々ありますが、私が一番好きなのは…」
“あなたの悲しみに寄り添います”
少しの間を置いて語られた花言葉。エルヴィンは目を見開いた。自分に向けて言われた気がしたからだ。
「出過ぎた真似を、すみません」
目が合って数秒後。急に早口になってそう言い、一礼して出ていくエマ。
去り際の横顔が複雑そうに歪んでいるのが見えてしまい、胸がチクリと痛む。なにか気の利く一言を言ってやればよかったと、初めて悔やんだ。
*
仲間の死を弔うことはあっても、振り返ることはしない。時に後悔に繋がり、次の一歩を踏み出す足枷となってしまうかもしれないから。そうなればそれこそ、彼らの死を無駄にしてしまうことになる——
いつもそう考えていたのに、今だけはそうは考えられそうもなかった。
エルヴィンは兵団の敷地内にある霊園の一角に穴を掘り、種を埋めた。
数日前壁外から持ち帰った、朽ちたリンドウの花弁の中にあった小さな種。花の世話が得意な兵士に聞いて一粒一粒丁寧に採取し、乾燥させたものだ。
「これが咲いたら、また私に寄り添ってくれるか…?」
呟きは麗らかな春の空気に溶けていった。見上げた空はあの日の秋空のようでいて少し違う。ぼんやりと霞んだ青。
この花が咲いたら少しの間だけ、君と共に、君と過ごした時間を振り返ってもいいだろうか。