第8章 《エルヴィン》堕ちる2 ※
この日もエルヴィンは全く求めてこなかった。
また昨日と同じく日中はパソコンに向かい、風呂も一人で入らせてくれた。
卑猥な下着はずっと着けたままだが、全く触られもしないとなんだか着ているのもちょっと虚しく感じる。
別に触って欲しいわけじゃない。
何もしてこないなら普通の服を着させて欲しいと思った。
「さ、寝ようか。」
二人で寝室へ向かい、エルヴィンに促されるままベッドへ入る。
エマが寝転んだあとギシッと音を立ててベッドが沈んで、隣に横たわった顔がこちらを向いた。
「寒くないか?」
「大丈夫です…」
「そうか。今日はちょっと暑くてエアコンをいつもより強めてしまったからね。寒かったら言っくれ。」
「…はい」
太くて逞しい腕にすっぽりと包まれるとエルヴィンの匂いがする。
この一週間で強制的に覚えさせられた、彼の匂い。
でもこの匂いともあと数時間でさよならなのだ。
「エマ」
名前を呼ばれて顔を上げるとキスされた。
その瞬間、あぁついに始まる…と体を強ばらせたが、唇を柔く押し付けられただけでスっと引いていった。
“随分間抜けな顔をしてどうしたんだ?”
と言われて自分がぽかんとしていたことに気がつく。
絶対に来ると思ったのに、来ない。
金曜日の夜を最後にセックスはしていないし、それどころか今日なんてキスさえ今までしなかった。
この男の意図が全く分からない。怖い。
怖いけれど、何をどう確かめたらいいのか分からなくて、何も聞けずにただチラチラとエルヴィンの表情を盗み見ることしかできない。
「エマ、」
柔らかい声が振って顔を上げれば、優しい手つきで髪を撫でられる。
その手は次にどこに行くのだろうか…唇?耳?首筋…?
でもいつまで経っても愛おしそうに髪を撫で続けるだけで、何もされない。
硝子のような綺麗な瞳を見た。
今自分がどんな顔をして彼を見上げているのかよく分からないけれど、慈しむような視線から目を逸らすことが出来ずにひたすら見つめていると、エマは次第に自分自身にある変化が起こり始めたことに気がついたのだった。