第8章 《エルヴィン》堕ちる2 ※
監禁七日目
「今日でちょうど一週間だね。君と出会って。」
「……そう、ですね…」
カチャ、カチャ、と食器の音だけが響く部屋。
向かいには上手にナポリタンを巻いて口に運ぶ男の姿。
「エマ…今日もまた無理そうか…?」
「………」
視線を落として、湯気の立つお粥を見る。
卵と鮭、彩りに薬味ネギが散らしてあってすごく美味しそうだけれど、スプーンを口の前まで持ってくると吐き気が込み上げて、カチャリと下げた。
「さすがに一週間まともに食べずは心配だ。」
ここに連れてこられてからずっとこんな調子だった。
当然といえば当然だ。
こんな異常な毎日を過ごしていて、普通に食事を取れるほうがおかしい。
エルヴィンは料理は得意らしく、三食バランスの良い食事を作ってくれる。
けれど一向に食べない私を心配して、ここ三日はお粥だとかうどんなど食べやすいメニューをわざわざ自分の分とは別に作ってくれている。
そういうものなら多少は喉を通るが、それでも毎回半分も食べられなかった。
明らかに細くなった腕を見て、私はこのままここで死ぬんじゃないかとまで考えてしまって心の中で力なく笑う。
「今無理なら後でもいい。食べられそうな時にまた食べようか。」
俯いたままのエマに優しい声が降った。
エルヴィンはとても優しい。
体調や寒くないか暑くないかなど小まめに聞いてくるし、セックスの時以外はとても紳士だ。
あの異常な考え方さえなければ、優しいし容姿も良いし、こんないいマンションに住んでいてたぶんお金持ちだし、言うことないんじゃないかと思う。
「少し…食べられそうです…」
「そうか。無理はしなくていいから。」
再びスプーンを動かした。
今度はうまく飲み込むことができた。
「明後日の日曜までは休みなんだが、月曜からはまた会社に行かなくてはいけないんだ。」
「…そう、ですか」
明後日が日曜なら今日は金曜。曜日の感覚までなくなってしまっていた。
ということは今週は丸々会社を休んでいたということなのか。
一週間ずっと家にいてどうやって生計を立てているのか少し気にはなっていたが、会社勤めなのは意外だった。