第8章 《エルヴィン》堕ちる2 ※
エルヴィンの舌が隙間を割って入った。
分厚くて熱いそれはエマの狭い口内を隅から隅まで嘗め回すように動く。
歯列をなぞられ、頬の内側を舐め取られて、口蓋のザラザラした部分を舌先でチロチロと刺激されると何故だか変な気分になった。
「ふぇ……」
「…ここが気持ちいのか?」
「ちあ、んぅ…」
“違う”と言いたかったのにまた同じところをつつかれてまた変な気持ちになる。
な、に…この感覚…
やめて…
どうにか訴えようとしても吐息とくぐもった声ばかりが漏れるだけでどうしても言葉にならない。
ガクン一
とうとう膝を支える筋肉が完全に緩んでしまう。
しかし太い腕がすかさず支えて座らすのを許さなかった。
喉の奥の方にだらりと下がった舌を、エルヴィンの舌が掬い取って絡ませた。
チュク、ピチャ…と口内で唾液の跳ねる音が鼓膜を揺らして、益々気がおかしくなりそうだ。
「ふっんん、ぅ……ん、はぁっ、」
ついに声が漏れてしまった。
記憶に鮮明に残る…昨日この男の前で出したあの甘ったるい声と同じだった。
どうして…身体が全然言うことをきかない。
声も止めたいのに止まらない。
心拍数がどんどん上がって、息苦しくて、呼吸もどんどん浅く荒くなっていく。
男に対して凄まじい嫌悪を抱いているはずなのに、身体の奥は熱くて疼いてたまらない。
これじゃあまるで…
「欲情してくれてるんだね、可愛い。」
「はぁ、はぁっ、はぁっ、ぁ……」
指1本で顎を持ち上げられ、強制的に目線が合わせられる。
腰を支えられているからなんとか立てているが、力の入らなくなった下半身はプルプルと震えていた。
「ハハ、いい顔になったな…」
柔らかく目を細めるエルヴィンにドキリと心臓が鳴って、エマはハッとした。
こん、なの…違う、おかしい。
こいつが憎くて仕方がないのに、疼きは増すばかりだ。
「エマ…」
エルヴィンの手がシャツの下からするりと背中へ滑り込む。
「っあ!」
中指が背骨に添って下から上へと上げられただけで身体は大袈裟に跳ね、大きな声が出てしまった。
それを満足そうに眺めたエルヴィンは指の動きはそのままに、シャツの肩をおろし、顕になった鎖骨から首筋へじとっと舐め上げた。