第8章 《エルヴィン》堕ちる2 ※
「エマ。少し水分を取ったらどうだ?」
結局すぐに後を追ってきたエルヴィンに捕まる。
こうなることは大体予想済みだったのだが、それでも悔しくてエマは唇を噛んだ。
ソファに座らされ水を差し出されるが、昨日紅茶を出された時の記憶と重なり飲む気が失せる。
「ここに置いておくから、」
「あなたは…」
コトリ、とテーブルにグラスが置かれる音と、自分の声がぶつかる。碧い眼がこちらを向いた。
「おかしいです…普通じゃない……人を誘拐して監禁して…こんなことして、私があなたに振り向くとでも思ってるんですか?!」
言いながら段々頭に血が上って声を荒げてしまうエマ。
エルヴィンはほんの一瞬驚いた顔をしたが、すぐにあの胡散臭い笑顔を張り付かせてこう答えた。
「あぁ、思っているよ。」
「…!!」
さも当たり前のように答えるエルヴィンに、エマは沸いた怒りもどこかへ飛んでしまうほど唖然とした。
「君のいう“普通”ってどんなだ?きちんとアプローチして清く告白するべきだ、とでも言いたいのか?」
「っ…分かってるなら」
「私はね。」
睨みつけたエマに穏やかな視線が注がれる。
エマがいくら凄んでもエルヴィンには全くと言っていいほど効かないようだった。
「プロセスなどどうだっていいんだよ。最終的に自分の追い求める結果になればそれで。
だから私はどんな手を使ってでも君を自分のものにしたい。私だけを見て、私だけを求めるようにしたい。」
始終口調穏やかに語られるが、話の内容はどう解釈したって狂気の沙汰としか思えない。
エマは愕然としていた。ずっとこの男の言うことが全く理解出来ない。
「何が言いたいのか分からないか?」
「わか、りません…」
エルヴィンは目を細めながらエマの頬に手を添えた。
無意識に身体が震えだし、呼吸も上手く出来なくなっていく。
“ハッ、ハッ”と浅い呼吸音だけがうるさく耳に響いていた。
「君が私を好きになってくれるならどんな手段も使うということだ。まぁこんな出会い方だしいきなり振り向かせることははなから諦めている。けれどね…」
頬に添えられた手がスルスルと撫で回し始めて、エマは瞬きも忘れて硬直した。